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水の旅路
ずっと遠くで雷鳴がしていた。
空は、誰かがフリーハンドで線を書いたように、半分灰色で半分は青色をしている。
北の空は夕立…。
空模様を気にしながら、使いを済ませて戻る。
俺の顔を見るなり、朔薇さんが尋ねる。
「雨、大丈夫だった?百合ちゃん出掛けてから凄い雷だったけど」
「大丈夫でした。菫さん、買って来ましたよ。直ぐに召し上がりますか?」
葛切りが食べたいので買って来きてほしい。と菫婆さんの使いだ。
「こんな時分に葛切りとか、大婆、百合ちゃんを使わないで」
「そんなら朔薇が買いに行け」
「まったくもぉ」
「私は、葛切りなんて言わん。心太と言ったワ」
「松花堂の葛切りって言ってたよ」
「菫さん、心太買って来ましたよ」
俺がそう言うと、婆さんはニヤッと笑った。
「百合さんは、ホント気が利いて、どっかの誰かとは大違いだワ」
そう言って朔薇さんを見た。
「この、大婆のお気に入りめ」
朔薇さんの手が俺の髪にクシャっと触れた。
この感じ…。
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