水の旅路

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天ヶ原の麓「天之嶺神社」と「龍谷寺」は並ぶように建ち、隣接して「天ノ龍神ケ洞」という鍾乳洞がある。 天津家はそれらを管理運営している。 大所帯のこの家で働かせて貰うようになって半年になろうとしていた。 既にこの世には居ない人を追い掛けて来たのだ。 厳しく優しい。尊敬であり、憧れであった先輩上司。 逝ってしまってから、彼への断ち切れぬ想いが憧憬を超えた感情だと気づかされた。 ただ、初恋のように、ふわりとして少し苦しい気持ち。 忘れる以外何処にも行き場はないことはよくわかっていた。 わかっていて、わかっていて… わからない。 どうしようもない。 突然の訃報の三日前。 その頃、自律神経失調症とやらで落ち込んでいた俺を気分転換に連れ出してくれたのが、此処「天ノ龍神ケ洞」だった。 岩を穿つ水の一滴は、人の生を遥かに超えて時を刻む。 そして、絶え間なく聞こえる水音。 僅かな光が玉虫色に輝く「玉虫之滝」 別名「心中水鏡」 篠さん… 篠さん あの水鏡に吸い込まれるようにして見た風景は、本当に幻だったのだろうか。
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