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「どうした?苦笑いなんかして」
「えっ?あぁいや…それより、西本にボタンやってよかったの?しかも第二ボタン」
「うん。あれで本当にかなでちゃんのことは終わり」
「そうか。本当の意味でけじめをつけたんだな。…賢一。もう恋はしないの」
「うーん、どうかな。未来のことなんてわかんないし」
賢一が次の恋をすることを否定しなかったことに、賢二はほっとした。賢一もいつかいい女性に出逢ってほしいと切に願っている。
「…終わっちゃったな、高校生」
「あぁ。色々あったけど、賢二が一番心に残ってることは何だ?」
「一番心に残ってること?そうだな…やっぱりクラブかな」
賢二は少し考えてそう答えた。自身が部長を務めたこともあって、やはり印象が強い。普段の部活やコンクール、学園祭など学校行事での演奏。…そういえば体育祭は行進曲を演奏したから三年間行進したことないな、と言って笑った。
「賢一は?」
「俺?そうだな…俺はクラブもだけど…やっぱり、賢二がまた笑えるようになったことかな」
「あ…」
自身のせいで賢二が心を閉ざし闇に呑まれてしまったが、現在の彼女である美香が賢二を救い出した。恩人とはいえ、初めは賢二の悪口を言った美香と付き合うことをよく思わなかった。だが美香といて幸せそうに笑う賢二を見ると、もういいや、と思えた。自分のことも大事と言ってくれたから。
「これも本当に最後。…ごめんな、賢二」
「じゃあ俺もこれが最後。…すまなかった、賢一」
二人は互いを見てそう言うとハハハ、と笑った。
「…人が成長するってこういうことだったのかな」
「えっ?」
「幸せな時は笑い合って、何かあった時にはぶつかり合って、助け合って乗り越えてきた」
「あぁ。そういうことの積み重ねが、人を成長させる」
そう言って二人は空を見上げた。高校生活を通して成長した自分達を、母の史子に見せたかったからだ。
…視線を前に戻すと、賢一があっ!と言った。
「入学式と卒業式の日、父ちゃん晩メシご馳走作ってくれるよな!」
「あぁ、そうだったな。父さんまだ学校から出てないし、今のうちに何が食べたいか考えないとな!」
「そうだそうだ!家帰ってメニューの候補考えようぜ!走るぞ賢二!」
「あっ、待てよ!」
三月の少し肌寒い風も物ともせず、賢一と賢二は賢太郎が作ってくれるご馳走にワクワクしながら、急いで家へと帰っていった。
― こういうことだったのかな。4 終わり / こういうことだったのかな。完結 ―
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