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「じゃ、帰るわ」
「行きましょう」
そう言って里見とよもぎは歩き出したが、賢二はその場から動こうとしない。賢一と二人きりにさせまいと、まだかなでを睨んでいる。里見とよもぎは振り返り、ちらと互いを見ると賢二のところへ行った。
「行くぞ、賢二」
「お腹も空いちゃったし、何か食べに行きましょうよ」
「俺はいい」
「後は二人の問題だ。ほら、行くぞ」
「大丈夫よ、賢一なら」
「あっ、ちょっ!…」
里見が腕を引っ張り、よもぎが背中を押して、賢二は無理やり連れていかれた。その場に残った、賢一とかなで。気まずいような、恥ずかしいような何とも言えない表情で、二人が向かい合う。
それから少しの間互いに何も言わなかったが、賢一が先に口を開いた。
「三人はまだ納得してないようだけど…かなでちゃんがちゃんとけじめをつけられてよかった」
「後悔したくなかったんです。どんなに謝っても許してもらえることではないですけど、ちゃんとけじめをつけなきゃって…」
「それはこれからの行動で示していけばいい」
「はい」
楽器の片づけがあるのでと言い、頭を下げ、かなでが体育館に戻ろうとすると、賢一がかなでを呼び止めた。足を止め、かなでが振り向く。
「俺も、けじめをつけさせてもらっていいかな」
「えっ…?」
賢一は真っ直ぐかなでを見ると、はっきり言葉にした。
「かなでちゃん。俺は、かなでちゃんのことがずっと好きでした」
「……!」
かなでは大きく目を見開いて賢一を見た。そして今度は“別の意味で”涙が出てきた。それが見えないように頭を下げると体育館へと走っていった。かなでが体育館に入ったのを見届けると、賢一も家に帰った。
「―――好きだって言ったのか!?西本に!!」
「あぁ。……過去形で」
夕食を終えた後の台所。賢二は賢一の話を聞いて一瞬、こいつバカなのかなと思ったが、“過去形で”の言葉にプッと吹き出した。最後の最後でちょっと強気なところを見せたか…と。とにかくけじめをつけられてよかったと思った。
「明日で終わりかぁ…高校生」
「あぁ。…いろいろあったな」
「本当、いろいろあったよな。明日で最後だから、高校生活満喫しようぜ!」
満喫って…と賢二は苦笑いしたが、確かに高校生でいられるのは明日までなので、そうだな、と答えた。
…あれこれ話をして、気がつくと日付が変わろうとしていた。そろそろ寝ようと互いにお休みを言って、それぞれの部屋に入っていった。
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