こういうことだったのかな。4

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三月九日、いよいよ迎えた、卒業の日。賢一と賢二は身支度をして朝食をとった。集合は九時だが、二人はカバンを背負っていつも通り家を出た。少しでもクラスメイト達との時間を多く取りたいからだ。 学校に着き、下駄箱で靴を履き替え、階段を上って教室に向かう。そして教室の入口から中を見ると、クラスメイト達が賑やかに笑い合っていた。こんな当たり前のことが幸せなことだったのだと、今更ながら実感する。賢一はこれが本当に最後だと、いつもより大きな声で挨拶をした。 「お――っす!」 「お――っす!」 「おはよ――!」 いつもより大きな声にクラスメイト達は驚いたが、すぐに賢一の気持ちを察し皆元気に挨拶を返した。席に着くと田中が話しかけてきたので三人で話をした。途中“いちゃラブ騒動”の話が出たが、今はもう笑い話だ。よもぎと里見が今付き合っていると言うと田中は驚いていた。 「みんな揃ってる――?」 そう言いながら村上が少し早足で教室に入ってきた。はーいと言って生徒達は皆自分の席に戻り、教壇に立つ村上に注目した。 「おはよう。いよいよこの日が来たわね。…さて、この後予定通り、十時から卒業式が行われます。昨日やったこと、ちゃんと覚えてる?一人だけ違うことしたら恥ずかしいからね!」 「ハハハ…」 「お前のことだぞ、賢一!」 「何で俺だよ!」 「ハハハ!!」 「九時五十分になったら体育館に移動するから、廊下に名簿の順に並んでね。それから…昨日言った “提案” 宜しくね」 「はーい!」 村上の話が終わった後、村上も一緒に思い出話で盛り上がった。その話は楽しかったことが殆どだったがしんどかったことも今ではいい思い出になっていた。そして…あっという間に移動の時間になった。 十時になり、厳かな雰囲気に包まれた体育館で、教頭が卒業証書授与式の開式を宣言し、卒業生、入場!と言った。吹奏楽部のカノンの演奏と共に卒業生が入場する。保護者達が一斉に注目し、拍手で迎えた。 四組まで入場し、最後の、賢一、賢二のいる五組が入口まで来た。そして村上を先頭に中へと入場していく。左側で部員達が演奏しているが、賢一は目を向けることなく奥へと進んでいった。そんな賢一を、かなでは演奏しながら目で追っていた。
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