こういうことだったのかな。4

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そして校長と来賓の長い式辞、祝辞に耐え、在校生送辞も聴き終えて、ようやく卒業生答辞まできた。答辞を言う代表者が、今ここで発表される。卒業生が皆、発表する教頭に注目する。 「卒業生答辞。卒業生代表(卒業生の方を見て)……里見睲」 次の瞬間、驚きの声が上がった。皆、代表は賢一か賢二だと思っていたからだ。よもぎもこのことは知らされておらず驚いた。里見ははい!と返事をすると前に進み、壇上に上がった。全科目満点だったのは里見だったのかと、賢一と賢二は恨めしそうに里見を見た。 里見は壇上から体育館を一通り見渡すと、ゆっくり口を開いた。 「冬の季節が終わりを告げ、春の訪れを感じさせる頃となりました。本日は、多くのご来賓、保護者の皆様にご出席いただき、このような晴れやかな卒業式を挙げていただきましたことを、卒業生一同、心より御礼申し上げます」 卒業生達のおぉ、という声が響く。 「三年前の四月、ここで入学式を迎えた時は、新しい生活が始まることの喜びと不安がありました。ですが、不安はすぐに消えてなくなりました。共に入学した仲間達の、たくさんの笑顔に出会えたからです。 …学校では多くのことを経験し学びました。中でも私が印象に残っているのは、クラブ活動です」 この時ふと、里見はいろんなことがあったなぁと思った。クラブの時もそれ以外の時も楽しかった。何かあった時も皆で考えて行動し、乗り越えた。仲間達と共に過ごしてきた日々が、かけがえのない宝物。 もう本当に、今日で終わりなんだ――― 里見の目から涙が零れ、言葉が止まった。皆がざわめく。そしてその時初めて皆、里見が答辞を書いた文書を持っていないことに気づいた。里見は答辞を暗記して言っていたのだ。皆、里見が言葉を忘れてしま ったのだと思った。 数日前、答辞を暗記した里見は校長に答辞の文書を渡しに行った。言葉を忘れるからと校長は暗記での答辞に反対したが、大丈夫ですからと文書を渡した。ほらみなさい、と校長がハラハラしながら里見を見ている。その時、ガタン!と椅子から立ち上がり、よもぎが叫んだ。 「頑張って、睲!!」
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