こういうことだったのかな。4

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よもぎはそう叫んではっ、と我に返った。右を見、左を見、後ろを見る。当然皆よもぎを見ている。前に向き直るとよもぎは火に炙られたように赤くなった。そして壇上を見ると、里見も真っ赤な顔をしてこちらを見ていた。…次の瞬間、冷やかしの嵐が巻き起こった。 指笛を鳴らしたりヒューヒュー言ったり、やんややんやの大騒ぎ。教師達は慌ててそれを止めたり来賓達に平謝りしたりしたが、来賓達は青春だねぇ、と寧ろそれを楽しんでいた。 あまりの冷やかしによもぎが両手で頬を覆い、椅子にヘタヘタと座り込む。それを見た賢一が、固まって突っ立ったままの里見に大声で叫んだ。 「頑張れ里見!お前、俺達卒業生の代表なんだぞ!よもぎだって、お前が心配で真っ先に声を上げたんじ ゃないか!お前が固まっててどうすんの!ちゃんと責任もってよもぎの想いに、ここにいるみんなの想いに答えろよ!」 賢一の言葉で、体育館はしんとなった。よもぎが顔を上げ賢一を見る。他の皆も、里見も。…真っ直ぐな目から、親指を立て、ニッと明るい笑顔になった賢一を見ると、ふ、と思わず里見も笑った。 『よもぎのことではムカついたけど、やっぱ憎めねぇな、あいつは…』 気がつくと、他の卒業生達も笑顔で自分のことを見ていた。里見は頷き、チラとよもぎを見ると答辞を続けた。クラブ活動から学んだことや在校生に伝えたいこと、教師達への感謝、そして、結びの言葉。 「卒業後は皆、進む道は様々です。ですが、私達はこれからも目標を持ち、それを達成できるよう一生懸命取り組んでいきます。…最後になりましたが、学校の更なる発展と皆様のご健勝を祈りつつ、答辞の言葉とさせていただきます。平成三十年三月九日、卒業生代表、里見睲」 答辞を言い終え頭を下げる里見に、皆温かな拍手を送った。里見が席に戻り蛍の光を斉唱すると、いよいよ最後、今年の卒業生が選んだ卒業歌、さくら(独唱)を斉唱し、卒業式は終わった。 …………………………………………………………………… ここまで読んでくださり、ありがとうございます。 このお話は、平成時代に書いた過去作です。
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