こういうことだったのかな。4

62/66
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/66ページ
教頭の卒業生、退場!の声に再びカノンが演奏され、拍手の中卒業生達が退場していく。照れている者や涙で目を赤くしている者など、表情は様々。賢一と賢二は胸を張り、笑顔で歩いていった。かなでは懸命に涙を堪え演奏する。そして、二人の立派な姿に賢太郎が目を細めた。 『おめでとう、賢一、賢二』 卒業生達はそれぞれの教室に戻っていく。賢一と賢二も教室に戻り席に着いた。程なくして保護者達も教室に来はじめ、賢太郎も教室に入ってきた。それに気づいた二人は驚き、賢太郎のもとへ走っていった。 「父ちゃん!」 「父さん!来てくれたの!?」 「当り前だろう。つーか、卒業式の日時教えてくれないなんて」 「だって父ちゃん忙しいし…」 「入学式と卒業式はいつも来てるだろ。保護者向けのプリントだってあったはずなのに見せないし、学校に電話して訊いたよ」 「ごめん。…来てくれてあんがと」 「ありがとう」 ったく、と賢太郎は少し怒ったような顔で笑った。家の事情を知るクラスメイト達はふっと笑って三人を見ていた。…そうこうしているうちに村上が卒業証書を持って教室に入ってきた。二人は席に戻った。 「はい。…今年も滞りなく…というわけではなかったけれど、何とか無事に卒業式を終えました」 「ほらみろ、やっぱお前じゃねぇか、賢一」 ハハハと笑いながら皆賢一を見た。賢一も頭を掻いて苦笑いした。 「保護者の皆様、本日は、子供さんのご卒業、おめでとうございます。卒業式では、一段と立派になった子供さんを見ることができたんじゃないかと思います。その証として、これから卒業証書を渡したいと思います。…じゃあ赤川ゆいかさん、前に出てきてください」 はい、と返事をしてゆいかが前に出ると、村上は文章を読み上げおめでとうと言って卒業証書を渡した。他の生徒達にも同じように卒業証書を渡し、全員に渡ると村上は改めて生徒達を見た。 「このクラスは全員、大学、専門学校への進学が決まりました。これから、楽しいこともあると思うけど厳しい試練も待っていると思います。でもどんな時も目標を見失わず、しっかり前を向いて、……歩んでいってください」 目に涙を浮かべ、少し言葉を詰まらせながら、村上は生徒達に餞(はなむけ)の言葉を贈った。
/66ページ

最初のコメントを投稿しよう!