こういうことだったのかな。4

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フン、と上から目線の雅紀とご機嫌な咲和、本当に気に入らない様子の賢一を見て皆大笑いした。そしてそろそろ帰ろうかという雰囲気になり卒業生達が正門の外へと目をやった時、賢一の名を呼びながら、女子生徒がこちらへと走ってきた。それを見た賢二、里見、よもぎは表情を曇らせた。かなでだ。 かなでは胸に手を当て息を整えると、何か言おうとしては言えないを何度か繰り返したが、最後は覚悟を決め、しっかり賢一を見て言った。 「賢一先輩の、制服のボタンをください!」 …一瞬の間があった後、(事情を知らない)卒業生達はヒュ~~~ッ!!と賢一を冷やかした。かなでは何人もの男子が狙うとびきりの美人だ。何このどんでん返し!と皆賢一をつつく。賢二達も驚いたが、賢一がどうするのか取り敢えず見ることにした。 賢一はかなでの前まで歩いていくと、ブレザーの二つあるボタンの、下にあるボタンを手でちぎり、そのまま真っ直ぐ前に手を伸ばした。そして毅然とした表情でかなでを見た。皆、賢一がかなでに何を言うのか静かに注目する。 「俺がかなでちゃんに何かをしてあげられるのは、これが最後だからね」 そう言って賢一は、差し出された両手の上にボタンを置いた。自分の手の上にあるボタンを見ると、かなでは涙が込み上げ、零れた。胸の前でギュッとボタンを握りしめると、はい…!と言って一礼し、校舎へと走っていった。 かなでの姿が見えなくなると、賢一は皆の方を見、さ、帰ろうぜ!と笑って言った。賢一とかなでのやりとりに少し意味深なものを感じたが、何だか事情を訊いてはいけない気がして、皆も帰ろ帰ろ!と言って正門の外へと歩き出した。 ボタンを渡したことにいい気はしなかったが、賢二達も何も言わなかった。 じゃあ!と言い、後輩達と仲間達と別れ、皆それぞれの方向へと歩いていく。里見とよもぎはデートのため公園に向かう。賢一と賢二も家に向かい歩き出した。 歩きながら賢二は美香のことを思い出した。数日前の電話で美香が卒業式の日一緒に帰ろう♡と言ったが賢二はそれを断った。卒業式の日は賢一と帰ると決めていたからだ。高校最後の日なのに!と美香が怒ったが、賢二はそうしたかった。 『はは…美香今も怒ってるだろうな。帰ったら電話しよう』
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