2 私は不気味な動画を見ている

1/1
前へ
/6ページ
次へ

2 私は不気味な動画を見ている

「ひっ」  後ろに飛び退いた拍子に、ビデオカメラがゴトンと落ちた。  4倍速の動画からはめきめきと人間の指が生えてくる。  5本生え揃って、掌まで生えて、手首まで伸びて、それから脈の辺りにもう1本指が生えてきた。 「うわ、キッモ……!」  お兄ちゃん、悪趣味すぎる。  まだエッチなビデオのほうがよかった。  思わず目を逸らす。  ベランダの洗濯物が揺れる。とりあえず、あれを入れよう。  窓を開けて、洗濯物を取り込んでカーテンレールにひっかける。 《フハハハハハハッ!!!》 「!?」  急に笑い声がして、びっくりしてテレビを見てしまった。  今度は頭が禿げて耳の上だけもじゃもじゃの白髪がある男性が、庭みたいなところでバーベキューしている。4倍速だから、職人技みたいな超高速で肉をひっくり返しながら笑っている。 「もう、やだぁ……!」  悪趣味にもほどがある。  家賃よりお兄ちゃんの頭のほうが問題だ。  テレビを消して、ビデオカメラの傍にへたりと座り込む。  心臓が爆発しそうで、汗だくだ。  ビデオカメラも停止しよう。そう思って、私は重たくて古いビデオカメラを再び両手で持ち上げた。  ──コトン。 「!?」  小さな物音に、びくりと跳ねる。 「……なんだ、写真か」  窓を開けっぱなしにしたせいで、風が吹き込んで、カラーボックスの上の写真立てが倒れただけみたいだ。10月も半ばになって寒暖差が激しいし、私は這って窓を閉めた。それから写真立てを元に戻す。 「……家?」  実家(うち)じゃない。  田舎……? っていうか、山小屋みたいな感じ。  アウトドアな人じゃないのに。  4年の大学生活で変わっちゃったのかな。ソロキャンとか流行ってるみたいだし、別にアウトドア派になるならなるでいいんだけど…… 「……バーベキュー」  私はもう一度、ビデオカメラを手に取った。  4倍速から通常速度に戻して、テレビをつける。 《ハッハッハッハッハ。美味そうだろ?》 《うん! いい匂い!》  子供の声。  この動画を撮っているのは、子供って事? 「これが庭で……あの家に住んでるんだよね……?」  で、人間の手が生えるタンブラーを撮影したと。 「お兄ちゃん、どういう事なの……!?」  ドンドンドン!! 「きゃあっ! 今度はなにッ!?」  ドンドンドン!!  玄関を叩く音だ。  誰か来た。  大家さん!? 「います! います!!」  私は半泣きになって玄関に走り、ドアスコープから外を確認した。 「……」  お兄ちゃんと同年代の男性が立っていた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加