4 山道は雨が降り始めている

1/1
前へ
/6ページ
次へ

4 山道は雨が降り始めている

「──違います、悪戯じゃないですって! 交番に持って行きますから見てください! あっ」  久地石さんがスマホを耳から離し、呆然と見つめた。 「駄目だ。悪戯だと思って相手にしてくれない」 「久地石さん、お兄ちゃんどこにいるの!?」 「わからない……まさか!」  今度はお兄ちゃんのスマホをじっと見つめる。 「同じように通報して、相手にされなくて、なんとかしようと山荘に向かったんじゃ……」 「え!?」 「もしメールを読んだなら、住所は知ってる」 「そんな……!」  お兄ちゃんが、殺人鬼のいる山荘にひとりで!?   「ルコ、俺は念のため様子を見に行く」 「危ないよ!」 「でも日上沢が危ない状況にあったら、警察は信じてくれませんでしたーじゃ済まなくなる。大人が数人がかりで通報すれば警察も動くはずだ。この動画をお母さんにも見せて、通報してもらってほしい」 「私も行く!」  久地石さんの言う事は正論だけど、そんな時間はない。 「お母さん、日勤からの夜勤で明日の昼まで帰って来ないんです。救急センターのオペ室担当だから、病院に電話してもすぐ繋いでもらえないし。休憩は寝てるし。お兄ちゃんがいないならいないで、帰って来ればいいだけなんですよね? 私も連れて行ってください!」  こうして私は、久地石さんの手配したレンタカーであの山荘へ向かった。   「けっこう深く見えるけど、まだ関東だから。眠かったら寝ててもいいよ」 「眠くないです……」  助手席から眺める景色は、夜の山道。  ライトが照らす範囲でさえ、木々が生い茂っている。 「……」  お兄ちゃん、無事でいて……!    どうか、取り越し苦労になりますように……! 「あ……」  ガラスに、ぼたんと大粒の雨が落ちて来た。 「降ってきたな」 「……」  雨はすぐに激しくなって、視界を一層、悪くした。    曲がりくねる道を、他の車も見かけないまま久地石さんは丁寧に運転している。一本道だし、住所はわかっているのだから、暗くても迷う心配はないはずだ。 「もうすぐ着くよ」  お兄ちゃんより、ずっとしっかりしている。  お兄ちゃんが久地石さんに動画の件を相談したのも、納得だ。  久地石さんがいてくれてよかった。  私は膝に置いたビデオカメラをぎゅっと掴んだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加