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1 お兄ちゃんは家賃を滞納している
「お兄ちゃん、いないの? 瑠虹だよ?」
お母さんから預かった鍵で玄関を開けると、真っ暗な短い廊下に夕陽が射し込んだ。汚いミニキッチンの反対側には、山積みの洗濯物。そして正面に、もうひとつ扉がある。
社会人になったばかりのお兄ちゃんは、ちょっと広い8畳の1Kに住んでいる。家賃は5万。私のバイト代と同じくらい。働いてるのに、それも払わないなんて本当にどうかしてる。
「お兄ちゃん?」
いないのかな。
玄関の電気をつけて、一応、鍵をかける。
つけ置きされたお皿と、ぐちゃっとした脱衣所。嫌ぁ~な気持ちで左右を見ながら短い廊下を進み、部屋の扉を開けた。
「寝てるの? 大丈夫?」
インフルエンザとか、それ系の自力で動けない急病かもしれない。
そんな優しさも無駄になる。
いない。
「……なんなの」
むかつく。
半開きのカーテンから、ベランダに洗濯物が干しっぱなしになっているのが見えた。見た感じ、掃除は下手でもちゃんと生活している。
もしかして、仕事、辞めちゃったのかな。
「……」
暗い気持ちでベッドに腰掛ける。
「……なに、あれ」
ベッドと反対側の壁にテレビがあった。
今どき、テレビとか古い。お母さんだって台風や地震のときに速報を見るためにつけるくらいで、家でも埃が被ってる。
テレビに繋がれているのは、……ビデオカメラ?
ゲーム機かと思ったけど、ビデオカメラだ。
ベッドを下りて、床に正座してビデオカメラを持ってみた。
すごく重い。
顔をあげると、目の前にテレビの画面があって、私の顔がぼんやりと映った。
「……」
よく見ると、このテレビもなんだか古い。両方、中古品かもしれない。
近くにリモコンも転がっていて、お兄ちゃんもここに座ってビデオカメラの映像を見ていたのがわかった。
つけてみる。
夕方のニュースが流れた。
少し弄って、ビデオカメラのほうに再生ボタンがある事に気づいた。
《──で人気のパフェは》
再生ボタンを押した。
「……」
音が消える。
画面は、真っ暗な中に、タンブラーがひとつ。
「?」
お兄ちゃんに家庭菜園の趣味なんてなかったはず。
しかも、真っ暗な中で育てるとかありえないし。土だし。
もう一度、ビデオカメラを手の中でぐるぐる回して、早送りのボタンを見つけた。
2……3……4倍速。
お兄ちゃんは、こんなの見てなにが楽しかったんだろう。
「?」
なんか生えた。
「──」
しばらく、頭が追いつかなかった。
でも、それは、指だった。
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