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最初は右手だけで、ドレミファソ、と弾くのも必死だったカナちゃん。
数ヶ月経つ頃には、両手でぼくを弾くようになっていた。
でも、やっぱり両手だと難しいみたい。
「えぇっと、右手でドレミドレミ、左手がドとミとソ…こんなのできないよ!」
ジャーン、とぼくを両手で叩く。
痛い!ぼくは悲鳴みたいな音を出す。
その音を聞いたお母さんが、キッチンから飛んできた。
「カナ!おかあさんピアノ買う時なんて言った!?」
おかあさんの声に、カナちゃんはびくっと肩を震わせる。
「…大事にするっていった」
「そうよね?今のは大事にしてる音?」
カナちゃんは黙って首を横に振る。目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
「だってできないんだもん。何回やっても間違えるんだもん。」
泣きながらカナちゃんは言う。
「でもピアノに八つ当たりしちゃダメでしょ?」
お母さんがカナちゃんに言い聞かせる。
うん、と小さく頷いたカナちゃんは、ごめんなさいと呟いた。
「ごめんなさいを言うのは、お母さんだけじゃないでしょ」
お母さんにそう言われて、カナちゃんはハッとした顔になる。そしてぼくに向き合って、
「ピアノさん、ごめんなさい。」
と謝った。
「さ、もう一回弾いてみよう。お母さん台所で聞いてたけど、だんだん上手くなってるから大丈夫よ」
ぽんぽんとカナちゃんの肩を優しく叩いて、お母さんは台所に戻っていく。
大丈夫、今度はうまくいくよ。ぼくも頑張るからね。
カナちゃんは息を吸い込んで、もう一回弾き始めた。
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