カナちゃんとピアノ

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ツェルニーにバッハ、ハノンにブルグミュラー。 毎日練習していたカナちゃんは、少しずつ、でも確実に上手くなっていった。 明るい曲、暗い曲。楽しい音色、悲しい音色、怒った音色。 カナちゃんの指先から、いろんな表情の音が紡ぎ出される。 ああ、幸せだなあ。 ぼくはカナちゃんと一つになって、たくさんの曲を演奏した。 ブルグミュラーの楽譜がソナチネに替わる頃、カナちゃんは6年生になっていた。 カナちゃんは、1年生の頃から近所のピアノ教室に通っていた。 小学校のお友達と一緒に始めたみたいだけれど、6年生になる頃には、カナちゃん以外みんなやめてしまったらしい。 「ミカちゃんもサツキちゃんもやめちゃった。ユウちゃんも来月やめるみたいだし、カナもやめようかなぁ」 ぼんやりとぼくの前に座って独り言を言うカナちゃん。 そんな、やめちゃったらぼくを弾く人がいなくなるじゃないか! ぼくはびっくりして、自分でふたを開けそうになる。 「あれ…今、勝手にふたが開いた…?そんなことないよね?」 カナちゃんが不思議そうにぼくをじいっと見る。 あぶないあぶない、ピアノは勝手に動いちゃダメなんだった。 「やめないでってことかなぁ。…もう少しだけ、頑張ってみようかな…」 カナちゃんはそっと僕を撫でて、ゆっくりとふたを開ける。 楽譜を開いて、今日もハノンから弾き始めた。
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