23人が本棚に入れています
本棚に追加
ツェルニーにバッハ、ハノンにブルグミュラー。
毎日練習していたカナちゃんは、少しずつ、でも確実に上手くなっていった。
明るい曲、暗い曲。楽しい音色、悲しい音色、怒った音色。
カナちゃんの指先から、いろんな表情の音が紡ぎ出される。
ああ、幸せだなあ。
ぼくはカナちゃんと一つになって、たくさんの曲を演奏した。
ブルグミュラーの楽譜がソナチネに替わる頃、カナちゃんは6年生になっていた。
カナちゃんは、1年生の頃から近所のピアノ教室に通っていた。
小学校のお友達と一緒に始めたみたいだけれど、6年生になる頃には、カナちゃん以外みんなやめてしまったらしい。
「ミカちゃんもサツキちゃんもやめちゃった。ユウちゃんも来月やめるみたいだし、カナもやめようかなぁ」
ぼんやりとぼくの前に座って独り言を言うカナちゃん。
そんな、やめちゃったらぼくを弾く人がいなくなるじゃないか!
ぼくはびっくりして、自分でふたを開けそうになる。
「あれ…今、勝手にふたが開いた…?そんなことないよね?」
カナちゃんが不思議そうにぼくをじいっと見る。
あぶないあぶない、ピアノは勝手に動いちゃダメなんだった。
「やめないでってことかなぁ。…もう少しだけ、頑張ってみようかな…」
カナちゃんはそっと僕を撫でて、ゆっくりとふたを開ける。
楽譜を開いて、今日もハノンから弾き始めた。
最初のコメントを投稿しよう!