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「私、音大に…音楽大学に行きたいの」
ある日カナちゃんは、おとうさんとおかあさんにそう言った。
音大。聞いたことがある。音楽の専門の大学。
おとうさんとおかあさんは、最初はびっくりして反対してた。でも、カナちゃんのピアノがじょうずなことは誰よりもわかっていたから、しばらくすると応援するようになった。
カナちゃんが音楽大学に行くって決めたのは、きっとぼくをずっと弾いていたからだし、嬉しいことのはずだった。
でも、なぜだろう。
ぼくは心からカナちゃんを応援できなかった。
カナちゃんのピアノはどんどんじょうずになる。
すごい速さで指を動かしたり、オクターブを軽々弾いたり。
ぼくもカナちゃんの動きに応えるのに必死だった。
『ただ楽譜通りに音をなぞるだけ』になっていたことに、その時は気づかなかった。
ぼくとカナちゃんはバラバラになっていたんだ。
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