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5 お姉さんといっしょ
「ごめんね」
わたしを抱きしめたまま、お姉さんは悲しそうな声で呟いた。
わたしも、何か言わなければ。
「……ママ」
「ごめんね。ママにうまく伝えられなかった」
「……でも……」
お姉さんが急に体を放して、わたしの頭をてのひらで挟んだ。一瞬パパみたいにグシャッと潰されてしまうのかと焦ったけれど、違った。お姉さんはおでこがくっつくほど近くからわたしを見つめて、口だけ笑った。目は、たくさん涙をためていた。
「ひとりぼっちじゃないよ。ママにはなれないけど、お姉ちゃんが守ってあげる」
「……」
「人間じゃなきゃ、ダメかな。恐い?」
甘えるみたいに言って、お姉さんは涙をこぼした。
わたしはお姉さんの首にしがみついて、お姉さんを抱きしめた。
お姉さんは、ほっとしたような溜息をついて、またわたしを抱きしめた。
パパが好きになったのもわかる。
お姉さんは、いい匂いがするし、甘え方がすごくかわいい。それにママと違ってきれいだし、とても丈夫だ。
ママみたいに簡単に壊れたりしない。
だけどいくら丈夫でも、やりすぎるとパパにしたみたいに怒ってわたしをグシャッと潰すかもしれないから、気をつけよう。わたしはパパより小さいし。
まあそれでも、叩いたり噛んだり、目玉をつっつくくらいならどうってことないと思う。熱湯をかけたり、ハサミで耳を切ったり。いろいろしたい。
パパがしてたことに比べたら、ぜんぜん痛くないはずだもの。
ふたりとも涙をためたまま、照れたような顔をして見つめ合う。
パパのじゃない。わたしの、きれいなお姉さん。
「一緒にいく」
そう告げると、お姉さんは嬉しそうにふんわりと笑った。
お姉さんが立ち上がったので、きれいな長い足が目の前に来た。お姉さんの膝はもう、つるんと元通りになっていた。
手をつないで坂道を下る。
すっかり真っ暗で、お姉さんの透き通った歌声が夜の中に吸い込まれていく。わたしはうっとりと耳を澄ました。とてもいい声。
──いい、声。
(終)
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