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「蛇の睨みあいですか、ハハ。うまい事をいいますね」 「怖かった。俺がカエルだったらもう見ているだけで目を回したに違いない」  カリトンが用意してくれた温かいお茶に癒されながらシエラは「ハアー」と再度肩の荷をおろす。 「おい、聞こえているぞ。わざとだったら大した神経だ」  対面に座るヴァシレフスは肘置きに手を掛けながら平和ボケしているシエラを睨んだ。 「仲悪いの? 実の姉さんなんだろ?」  ここまでくると大海を知らぬカエルの方が実は強いのかもしれないなとカリトンは勝手に納得しながら静かに席を外した。 「実の姉だから腹が立つんだ。同じ土俵で戦えないからな」 「はあ?」 「アレクシアに剣で挑めと言うのか?」 「いや、言わないけど。いや、そうじゃなくて」  呆れ返ったシエラが気に入らないのか、ヴァシレフスは口を一文字に閉じたまま鋭い目だけをこちらへやった。  王族であるヴァシレフスも姉の前では一介の弟。弟と言うだけで手も足も出ないのだとシエラは妙な親近感を覚える。  何よりそんな彼が余りにも子供っぽくてやけにくすぐったい。 「ふ、ははは! おかしいの!」  我慢出来なくてシエラはとうとう肩を揺らして笑い出した。ヴァシレフスは頭にきたのか立ち上がってシエラを必死に諌めるがシエラはますます腹を抱えて笑うだけだった。  しばらく二人の痴話喧嘩のような攻防が続くが、そのうち諦めたのかヴァシレフスが拗ねたようにカップに残った茶を一気に飲み干し、わざと乱暴に音を立てソーサーに戻すと、シエラに強く告げる。 「──決めた。今夜はお前が泣こうが喚こうが最後まで抱く。どれだけ暴れようが俺はもう絶対にお前を逃がすものか」  全身の血液が音を立てて引くのをシエラはハッキリと感じた。  シエラはあまりにも執拗に藪をつつき過ぎてしまったことを猛省するが手遅れであることも同時に悟った。
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