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Ⅵ
鍵の掛かっていない客間の扉を静かに内側から開くとシエラはその向こうに続く廊下の先を覗き込んだ。
どこが突き当りかもここからでは確認出来ないほどに廊下の奥は広く続いていて、あっというまに迷子になりそうだった。
──迷子になっても構わない。
シエラの使命はヴァシレフスから逃れ、隠れること。今夜は特に。
逃亡すれば矢で射抜かれるのかもしれないが、今のシエラはそれよりもヴァシレフスの宣告が何よりも恐怖でしかなかった。
あの怒りに任せたままあの夜と同じ目に遭ったら自分の体は今度こそバラバラになってしまいそうで恐ろしかった。あの時視界の隅で見たヴァシレフスの逞しいものにシエラは内心悲鳴が出そうだったのだ。
「まぁ、実際はそれどころじゃなさすぎてもう……」
先日の夜のことを思い出すと羞恥と恐怖で体が震えた。初めてのことだらけで全く頭が追いついていないところにどんどんヴァシレフスが攻め入ってきて怖いのに……
ジワリと胸の奥が熱を持つ。
シエラは慌ててかぶりを大きく振り目を醒ます。
「隠れないと」
シエラは自分に言い聞かせて客間からの脱出を計った。
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