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 フラフラとヴァシレフスはベッドに腰掛け、その横にシエラを座らせた。    朝話した時は普通だと思っていたのに、どうして今こんなにもヴァシレフスは苦しそうに見えるのか。アレクシアに何か言われたのだろうか、それとも国王に? シエラは不安そうにヴァシレフスの顔を覗き込む。 「シエラ。妹を連れてお前は村へ帰れ」 「え?!」  お前はだめだと言っていたくせに、一体どういう心境の変化なのか。シエラは拍子抜けした。  そして何より喜んでいない自分自身に困惑した。 「いいのか……、本当に?」 「嬉しくないのか? 家族の元へ戻れるんだぞ」 「嬉しい……けど、でも……」それ以上自分はヴァシレフスに何を言うつもりなのか怖くなった。それにこんなヴァシレフスをシエラは知らない。  横柄で俺様で、自分勝手で。シエラの気持ちなどお構いなしに振舞ってきたのに。昨日の夜、乱暴に最後まで体を繋いだのに──。 「王子様って、気まぐれなんだな──」  俯いたまま細い声でそれだけ告げる。 「ああ、気まぐれだよ。運命くらい気まぐれだ。いい加減で、勝手で、どうしようもない」  見上げたヴァシレフスは何故か辛そうに笑っていた。涙すらそこにはないけれど、深い海の色をした瞳が酷く苦しげに揺れていた。 「ヴァシレフス……なんで……」 「カリトンを呼ぶ。後はカリトンが全て執り行う」  扉の向こうの従者を呼ぼうと口を開いたはずが声が出なかった。 ──唇をシエラに塞がれていたからだ。  そのまま簡単にヴァシレフスは押し倒された。すぐ傍でシエラが目尻を赤くして見つめている。 「運命だったんじゃなかったのか……。俺に伴侶になれって、お前が言ったんだぞ! お前が俺をこんな風にしたんじゃないのか!!」  胸倉を掴んで苦しそうにシエラがヴァシレフスの肩に顔を埋める。泣いているのが震える肩と声でわかった。 「間違えたのは──俺のほうだった。すまない。シエラ」 「いやだ、許さないっ……」  本当は──  あの夜、男のシエラを見つけた時。間違いであってくれと願った。    割り切るつもりだった。  己の犯した罪を受け入れて、もう国民を誰一人失いたくないと、自分の代わりに異国人の命を生贄にこの国を救うのだと ──あの夜までは……。  異国人(シエラ)にも愛する家族はいて、生まれ育った祖国がある──。  なぜ国を跨いだからとその命を軽んじれる?  それでは奴隷を買う奴らと同じだ──。   「シエラ──俺の話を聞いてくれるか? 俺の犯した罪の話だ」
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