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「アネーシャ、本当にいいのか?」 「うん。私ね刺繍の仕事が楽しいの。アレクシア様もすごく喜んでくださるし、ここでの働きの対価を村へ送ってくださるって仰ったのよ。それにね、村へはいつでも帰って良いし、戻って来たければいつでもここへ来なさいって」  アネーシャは国へ帰ることを許されたが敢えて残ることを選んだ。   辛い思いをした場所から救い出してくれたアレクシアに恩を感じているのもあるだろうが、何よりそんな彼女を敬愛していることをその言葉の節々からシエラは理解した。 「お兄ちゃんこそ、川で宝石をたくさん見つけたんでしょう? 村に持って帰るんじゃなかったの?」 「うん、宝石は金に換えてもう村へ送ってもらったよ。それに──」  アネーシャは何かにピンときたのか、「ああ、なるほど」と、含み笑いをしながら兄の顔を下から覗きこむ。 「それに、お兄ちゃんにはヴァシレフス様が必要なのね」 「はっ?!」  妹の言葉があまりにも心外だったのか、シエラは眉間に皺を寄せた。 「逆だ! あいつこそ俺が必要なんだ。」 「ふーん。じゃあそういうことにしておいてあげる」 「アネーシャッ!」  アネーシャは10歳のあの時のように声を出して無邪気に大きく笑った。
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