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「シエラ、探したんだぞ。どこへ行っていた」  南の塔へ戻るとヴァシレフスが痺れを切らしていたのか使いを寄越すことなく自身でシエラの前に現れた。 「なんだ? どうかしたのか?」 「カリーという名に聞き覚えはあるか?」 「カリー? カーラの妹だ!」  シエラの琥珀色の瞳が一気に輝いて揺れた。 「木はしはしば森を隠すとはよく言ったものだ、カリーは司教の元で長い間匿われていたそうだ」  驚いたことにカリーは自ら売られた先を脱走し、教会に逃げ込みそのまま東の塔で暮らす司教に匿われ、今まで無事に生き延びてきたというのだ。 「カリーはカーラの小さい頃にそっくりなんだ。見た目は小さくて可愛いのにその辺の下手な男より勇ましくて強くて、頭も俺なんかよりずっと賢いんだよ」  懐かしそうにシエラが村のことを明るく話すものだから、ヴァシレフスは胸が詰まる思いだった。 「やっぱり、お前も帰るか? 家に──」  ヴァシレフスは長い睫毛を伏せ気味にして静かに告げる。その睫毛の先をシエラは指でちょんと軽く引っ張って見せた。  驚いたヴァシレフスが眼を見開くと満面の笑みのシエラと目が合った。 「こんな運命も悪くない。──だろ?」 「すまない。つまらないこと聞いたな……。忘れてくれ」 「いいや、今のは言質として取っておこう。俺がいつお前に愛想が尽きるかわからないしな」  そんな揶揄いに「お前は何様なんだ」と、ヴァシレフスが怒ってくるのを想像していたら、当の本人は優しく微笑んだだけだった。 「愛想を尽かされないよう努力するよ」とヴァシレフスはシエラにそっと口付ける。 ──誓いの言葉みたいだ。なんて、シエラはまるで乙女みたいな事を考えた自分に一人恥ずかしくなってしまった。  南の塔に向かって真っ直ぐ太陽が降り注ぐ──。    二人の立つ窓辺に溢れんばかりの眩しい光が広がって部屋の中を広く、明るく照らし、まるで二人は新しい世界に包まれるようだった──。 「シエラ」  その名を愛しそうに呼ぶ男の顔をシエラは見上げた。そして紡がれるその先の言葉に琥珀色の瞳をより一層大きく開き、ゆっくりと細めると自らも同じ言葉を男へと捧げた──。 〜τέλος〜
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