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家に着いた時、わたしはすっかり怒っていた。 怒ったまま野菜を切り、怒ったまま鶏を焼いて、 怒ったままペットボトルをお湯に沈めた。 何がよく行くだ、何がお菓子セットだ。 こっちはお菓子よりお値引きの鶏肉だもんね。 320円のシャンプーの香りとかさせちゃって、ペットボトルと一緒にお風呂に入ったこともないだろうに。 重い2リットルを沈められて、湯船がどぷんと唸る。 「今日は随分と豪快ねぇ」 野菜炒めの玉ねぎを母がつまみ上げたのは、 午後8時半だった。 母の長い箸の先で、 玉ねぎは元の形に近い曲線をしている。 照り焼きの鶏を食べようとしていたわたしは、 箸の先をちょっと変えて自分の野菜炒めをつついてみた。 とても噛み応えのありそうなキャベツの芯が転がり出る。 「今日は夕飯作るの、大変だった?  無理しないでねあき、 たまにはお弁当買ってもいいんだから。 連絡くれれば、外食だってできちゃうわよ」 わざと明るく言う母に 「大丈夫だよ」と慌てて返す。 野菜炒めがこうなったのは、 一番怒っていた時に作ったからだ。 玉ねぎがしゃくしゃく噛まれる音を聞きながら、 わたしはキャベツの芯を箸でころりと転がした。 不意に──自分の叫び声が蘇った。 女神様のバカぁっ、と。
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