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「……っ!」 全身が一気にすくみ上がる。 頭を抱えて呻き回りたい衝動に駆られて、 とっさにキャベツの芯を口へ押し込んだ。 バリボリと野菜炒めらしからぬ音を立てるわたしに、母は不思議な顔をして「あき?」と尋ねてきたけれど、何も答えられるはずはなかった。 怒りをそっくり交換したような恥ずかしさは、 お風呂に入っても消えなかった。 一人きりのお風呂場で、 わたしは今度こそ思う存分頭を抱えた。 短い髪をどんなにかき混ぜても何も変わらないことを思い知ると、あとはもうぼんやりと天井を見るしかなくなった。 足を乗せたペットボトルがことりと揺れる。 湯船の中、わたしの耳にはいつの間にか、 夕方のヴァイオリンが響いていた。 お屋敷の窓からこぼれ落ちてくるあの旋律。 「……何て曲なんだろう……」 呟き声が反響する。 初めて聴いたのがいつだったか、 もうわからないほどなのに、 そう思ったのは初めてだった。
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