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「……名前、何ですか!」 周りがちょっと静まりかえる。 間髪入れず、 店員さんの放送がタイムセールの開始を告げた。 賑わい出した店内で、わたしは固まってしまう。 詰まった。緊張してたから。 かぁっと熱くなった耳に、 少し低い声はひらりと届いた。 「山本(やまもと)静香(しずか)」 ぎこちなく顔を上げる。 お淑やかな顔立ちに、 いたずらっ子の笑みを浮かべて、 その人はわたしに問い返した。 「あなたは?」 野菜売場から威勢のいい声がする。 「……近藤(こんどう)あき」 それを気にしないまま、 わたしは目の前の人に答えた。 あの旋律が『ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジー』という曲の一部だと、 わたしが静香さんから聞いたのは、 それからもう少し後のことだ。 おわり
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