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不機嫌な入道雲みたいな色だ、と思った。
思ったのは、スーパーを出た後だった。
「ひえぇ…っ!」
頭上の雲がまるごと降ってきたような雨に、
わたしは転げる勢いで坂道を下る。
身体で抱きしめたエコバッグには今日の戦利品。
財布も含めて、絶対濡らすわけにはいかない。
雨音に追い立てられていると、
不意に屋根が見えた。
地面には水煙が立っている。
わたしはとっさに屋根の下へ飛び込んだ。
重たい前髪をかき分けて、バッグの中を確かめる。
少し湿っぽいけれど、どうやら無事だ。
ほっとして、それからようやく、
自分の飛び込んだ場所に気がついた。
ガレージだ。坂の途中の──女神様のお屋敷の。
アスファルトから湿った匂いが流れ込む。
そっと首を回す。車はなかった。
薄暗い奥にいろいろな影がある。
どきどきと覗いたわたしは、古い自転車を見つけた途端になんだか見たい気が失せて、
屋根の外へ眼を移した。
高台の景色が白く霞んでいる。
雨音は勢いのあるシャワーみたいだ。
空には不機嫌色のままの雨雲。
カシャンと音がした。
何の気なしに首を回してしまう。
左にある藍色の門を、赤い傘が抜けていた。
白いブラウスの背中で、
重い雨を嘘にするようにふわりと黒髪が揺れる。
鮮やかな傘の下には、完璧な横顔。
わたしの喉から、大げさに息を呑む音がした。
雨の中だというのに、その瞬間、
赤い傘がぴたりと止まった。
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