4

1/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

4

不機嫌な入道雲みたいな色だ、と思った。 思ったのは、スーパーを出た後だった。 「ひえぇ…っ!」 頭上の雲がまるごと降ってきたような雨に、 わたしは転げる勢いで坂道を下る。 身体で抱きしめたエコバッグには今日の戦利品。 財布も含めて、絶対濡らすわけにはいかない。 雨音に追い立てられていると、 不意に屋根が見えた。 地面には水煙が立っている。 わたしはとっさに屋根の下へ飛び込んだ。 重たい前髪をかき分けて、バッグの中を確かめる。 少し湿っぽいけれど、どうやら無事だ。 ほっとして、それからようやく、 自分の飛び込んだ場所に気がついた。 ガレージだ。坂の途中の──女神様のお屋敷の。 アスファルトから湿った匂いが流れ込む。 そっと首を回す。車はなかった。 薄暗い奥にいろいろな影がある。 どきどきと覗いたわたしは、古い自転車を見つけた途端になんだか見たい気が失せて、 屋根の外へ眼を移した。 高台の景色が白く霞んでいる。 雨音は勢いのあるシャワーみたいだ。 空には不機嫌色のままの雨雲。 カシャンと音がした。 何の気なしに首を回してしまう。 左にある藍色の門を、赤い傘が抜けていた。 白いブラウスの背中で、 重い雨を嘘にするようにふわりと黒髪が揺れる。 鮮やかな傘の下には、完璧な横顔。 わたしの喉から、大げさに息を呑む音がした。 雨の中だというのに、その瞬間、 赤い傘がぴたりと止まった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!