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違う、とぐるぐるしていると、 女神様が突然「あ!」と声を上げた。 陶器のお人形みたいに滑らかな頬が、 わたしのすぐ横にある。 「この割引シール、坂上スーパーだ!  あたしもよく行くよ。ほら、お菓子でさ、 週替わり3個100円のセットがあるじゃない?  あれ、他じゃ見ないような変わり種があって面白いよね、つい試したくなっちゃう。 今日も急に気になってさ、今から行くところ」 エコバッグの一番上には、タイムセールで半額になったほっけのパックが載っていた。 女神様はアハハと楽しそうに笑って一気に喋る。 黒髪がさらりと肩からこぼれて、 花に似せたシャンプーの香りが雨にまじる。 スーパーのシャンプー売場にあるサンプルの香り。 赤い傘がくるりと回る。 「っと、そう、スーパーに行かなきゃ。 ごめんね絡んじゃって、 本当に止むまでいていいから。じゃあね」 友達のように手を振って、女神様は歩き出す。 赤い傘に雨粒がさらさら弾かれる。 わたしはやっぱり何も言えず、 ただ見送るだけだった。 雨はいくらも経たずに止んだ。 濡れたアスファルトに日なたを見せる坂道を、 わたしはゆっくりと帰った。 けろりと夕焼けを見せる空を、 時折恨めしげににらみつけて。 夕立なんて降るからだ。 透き通った雲も、乾き始めたTシャツも、 なんだか全部がいやになる。 全部、夕立がいけないんだ。
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