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#5姫乃樹ルナ
「そんなすぐに来られちゃァ困りますよ」
こっちにも何かと都合がある。掃除をしてないので部屋も汚れたままだ。とても年頃の女の子を迎える状態ではない。
『やだやだ、イキたいのォ。もぉいくの。すぐに、イッちゃうから』
まったく聞き分けがない。駄々っ子みたいな女の子だ。
「あのですねえェ」
『じゃァ、イッちゃうね』
女の子がそう言い放つと通話が切れた。
「ぬウゥ、マジか」
それにしても耳元で女子から『イッちゃう』と連呼されるとヤケに興奮してきた。
けれども何かおかしい。もしかしたら、ただのイタズラ電話なのだろうか。
だが仕方なく急いで部屋を掃除し始めた。半信半疑だが、もしもと言うこともある。
どうせ彼女が来なくても掃除はしなくてはならない。
やがて十分もしない内に来訪者を報せるインターフォンが鳴り響いた。
「ンうゥ?」
まさか本当に電話の女の子が来たのだろうか。ゆっくりと玄関へ向かった。
「あのォ、どちら様でしょうか?」
ボクは用心してドア越しに声を掛けた。
『私よ。開けてよ。早くゥ』
「あのですね。何かと物騒なんですから。ちゃんと名乗ってくださいよ」
開けた途端、半グレの強盗団に襲われたら堪らない。
『早く入れてよ。もうガマンできないの。早く入れてェ』
まるで押し売りのように、ドンドンとドアを叩いてきた。
「いやいや、近所迷惑でしょう。わかりましたからドアを叩かないで。こんな夜更けに『早く入れて』なんて、女の子が大声で喚いたら、ご近所でなんて言われるか」
こんなに騒がれたらどうしようもない。ボクは躊躇いながらもドアのカギを開けた。
すると向こう側から強引にドアが開かれてしまった。
「何してんだよ。ポー!」
ドアが開いた途端、訪れてきた美少女に思いっきり怒鳴られた。
「はァ、ポー?」
誰なんだろう。アイドルみたいな美少女だ。女子高校生だろうか。派手なキャップをかぶっている。
「ハイ、これ持って。暑ッちぃんだから」
美少女は、図々しく玄関から上がり込んでボクにキャリーバッグを放り投げてきた。
「ちょっとあなたはどなたでしょうか?」
なんとかキャリーバッグを受け取ったものの意味が解らない。
「ルナだよ。姫乃樹ルナ。決まってんだろう」
美少女は胸を張って応えた。
「えェ?」
決まってるって。何がだろう。
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