2 うちじゃない!

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2 うちじゃない!

 突然、手書きの便箋が入ってるなんて気持ち悪い。  その気持ちはよくわかる。  だからって、そんな怒らなくても…… 『 う ち じ ゃ な い 』    504号室の返事は力強すぎた。  こっちが書いた紙に、そのまま赤のサインペンで斜めに大きく、6文字。  名前も顔も知らない者同士、仲良くなろうとは思わないが、波風は立てたくなかった。だから丁寧に対応したつもりだったのに、失敗だったようだ。  でも、これで相手がわかった。    エアコンさんは、506号室の住人だ。  そうとわかれば一安心。  間違いである事は伝えたのだし、問題は解決した。  ……ところが。 『再三のお願いとなってしまい申し訳ありません。エアコンが──……』 「えぇ~?」  仕事から疲れて帰ってきて、郵便受けにそれを見つけて、もうがっくり。  できるだけの事はした。  しかも濡れ衣なのに。  だんだん怒りが沸いてきて、その3通目は捻って捨てた。  翌朝、思い直して、皴を伸ばしてケースにしまった。    その日の昼休み、マンションの管理人に電話したら、留守電になっていたので事の次第を手短に吹き込んでおいた。 「お疲れ。どうしたの? 変な顔して」  同僚が気にかけてくれて、同じように手短に説明した。 「えぇー? キッモ……」 「なんだろう。呆けてんのかな?」 「もう強く出たほうがいいよ。いざという時には、管理人にも立ち合ってもらうとか話つけてさ」  この助言もあって、管理人からの返事をかなり心待ちにしていた。  夕方、着信があったようだった。  当然、仕事中だった。  管理人は留守電に「詳細は御手紙にしてお部屋にご案内しました」とだけ残していた。年配の男性だ。  なるほど。  うちのマンションの管理人は雇われなのか。  共用スペースの見回りと掃除をしたら帰っていくシルバー管理人。  大元の管理に相談する必要があるかもしれないと思ったら、げんなりした。 「こっちは忙しいんだよー。勘弁してよ」  で、帰宅だ。  なんで自分の家に帰るのに、嫌な気分にならなきゃいけないのか。  エアコンさんにはもう同情ではなく、怒りと疎ましさしか感じなくなっていた。帰宅して郵便受けを確かめると、茶封筒が封をされないまま入っていた。  管理人からの御手紙だ。  それを読んで、ゾッとした。 『お尋ねの件について、全入居者に「問題は直接対応するのではなく管理人へ連絡」という旨の文書を投函し、対応します。ただ506号室は空室のため、当面、念のため戸締りは厳重にしてください』
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