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4 待ち伏せ
聞けばお隣の504号室に住んでいる彼は、雇われシルバー管理人の孫との事。
話しているうちに、自分がいれば管理人立会いみたいなものだろ、という話になり、相手を待ち伏せして直談判という事になった。
今思えば、なぜそんな事をしてしまったのか……
夜明け前の午前4時半、504号室の扉を薄く開けて縦に顔を並べ、待機していた。
相手が女性だった場合はこちらの立場も危うくなるため、すぐに通報できるよう互いにスマホを〝撮影〟と〝通話〟にしておいて、もう準備万端。
でも、俺たちは信じられないものを見た。
来るか来るかと待ち構えていたエアコンさんは、505号室から出てきた。
「……」
ただこの段階で怯えていたのは俺だけで、管理人の孫は苛立っているようだった。
エアコンさんは、20代前半の女性に見えた。細身で紙が長く、寒いはずなのに袖のないワンピース姿。確かにエアコンが必要な夏の服装をしていた。
管理人の孫はそれが俺の彼女だと思ったらしい。
エアコンさんが通路を歩いていく。
闇の中に消えたエアコンさんが階段を上がるか下るかしたのか、それとも本当に闇に消えたのかはわからないが、姿が見えなくなった瞬間、管理人の孫が物騒な舌打ちをした。
「契約違反だろ」
「ちちっ、違う! あんな女知らない!」
「は? あんたの部屋から出てきたじゃん」
「だから意味わかんないんだよ!」
と、ガクブルしていたら管理人の孫に口を塞がれた。
「……」
エアコンさんが戻って来た。
さっきは気付かなかったが、手になにか持っている。もちろん、四つ折りの便箋だ。エアコンさんは静かに歩いてくると、うちの郵便ポストに便箋を入れて、扉をガッと睨み、また通路を階段のほうに向かって歩いて行った。つまり、去っていった。
「なんだ、あれ」
「……」
もう、こっちはメンタル限界だ。
エアコンさんは絶対にこの世のものではない!!
「なんだろ。なんか変だな」
「すごく変ですよ……っ?」
気づいたら泣いていた。
「階を移動したらかかる時間っぽいし、あれ、帰って来るだろ」
「はあっ!?」
「撮ろう。おい、邪魔。後ろ行け」
追いやられ、管理人の孫の後ろに回る。むしろ好都合だ。もう一生彼の背中に隠れて過ごしたいくらいの気持ち。
「来た」
管理人の孫が囁いた。
もう、叫ばないように両手で口を押えて、その画面を凝視した。
叫ぶか吐くかどっちかという状況。だって、こっちに向かって夜明け前の通路を歩いてくるエアコンさんの姿がスマホのカメラに映らないから。
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