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5 驚きの真実
もう無理……
夢なら醒めて……
「……!」
うちに入っちゃった。
その間、画面には勝手に開いて勝手に閉まる扉だけが映っていた。
管理人の孫はスマホを尻ポケットにしまって立ちあがり、腕を掴んで来た。
「行くぞ」
「!?」
そこからは必死の抵抗。
泣きながら無言で管理人の孫をあちこち叩き、申し訳ないが感情の捌け口にさせてもらった。このとき既に俺は事故物件を掴まされたのだという確信をもっていた。普通に家賃払ってるのに!
「んだよ。確かめるっつーか、あんたの部屋だろ。帰れ」
「……!?」
酷い。
待ち伏せを提案したくせに、見棄てるなんて。
でも結局、管理人の孫の背中にしがみつきながら505号室に帰った。もう自棄になっていたか、パニックで理性が働かなかったのかもしれない。
せめてただの変質者であってほしい。中にいてエアコンさん!
でも幽霊だったら?
……やっぱりいないで!!
「俺、触らないから手紙見ろよ」
「ななっ、なんで!?」
「泣くなよおっさん」
管理人の孫は無慈悲だった。
仕方なく震える指で郵便受けから便箋を取り出し、開いてみる。なぜ物理的にコレがあるのか、全然理解できない。
『寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い』
「なんて書いてある?」
「はあっ!? あっ、あなた見えるでしょう!」
「いや。俺さ、ただの線に見えてるんだよね」
「──」
限界突破だよ。
管理人の孫がスマホで便箋を映したら、本当に、ただひっかいたみたいな線がいっぱいあるだけなの。
でも、それで終わらなかった。
俺と管理人の孫の間、ちょうどスマホを頭に貫通させる感じでエアコンさん出現しちゃったんだよね。
「!!!!!!」
それで、ふしぎそうに俺を見て、首を傾げて消えたの。
もう、財布だけ掴んでマンションを飛び出し、駅前に走った。マンガ喫茶で一夜を明かし、開店早々の不動産屋に飛び込んで別の部屋を借りた。強引な引っ越しは大目に見てほしい。
でも、忘れようと努めて生活していたら、思わぬ人物が尋ねて来た。
警察だった。
経緯を端折って結論だけ言うと、俺は今、ある殺人事件の裁判の証人席に座っている。
ある男が悪戯目的で505号室のエアコンを掃除した際に薬物を仕込んで気絶させ、犯行に及ぼうとしたら亡くなってしまったので、業務用冷凍庫で女性を凍らせ、その冷凍庫ごと海に遺棄したという凄惨な事件だった。
なぜ、女性が清掃業者でもない男を家に上げたのか。
そう。
彼は、管理人の孫だったからだ。
被告人が入廷してくる。
息を呑んだ。
「……」
来る……
ああ、ほんとに、あいつだ。
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