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6 来る? やっぱ来る?
「真犯人は孫ではなく、証人席に座っている彼です」
雇われシルバー管理人の爺さんが証言台からこっちを指差す。
彼は検察側の証人。俺が管理人室の投書箱に投函した分に加え、あの夜、部屋に残してきた最後の便箋を加えた4枚の便箋を証拠に、そう主張している。
もちろん、濡れ衣だ。
管理人の孫たるあの殺人鬼も、その線で行く気みたいだ。
ちなみに俺は犯行時その土地にさえ住んでいないため、とっくに嫌疑は晴れている。
「あの男は頭がおかしく、この便箋で自白している。そうじゃなければ真犯人だから被害者に呪われているのです」
頭がおかしいのは、そっちでしょう。
俺は心で罵りつつも、正直、それどころではなかった。
自分になにが起きたか理解していないらしいエアコンさんは、意思疎通がとれた唯一の人間として、現在、俺に憑りついている。
「寒いんです……こんな酷い事、おねがい……やめてください……」
「……」
向こうにあなたを手にかけた男がいますよぉー!
そう語り掛ける事さえ叶わない。だって法廷だから。
「寒い、どうして……こんなに寒いの……?」
「……」
彼女の存在(?)さえ目を瞑れば、裁判は恙無く終わった。
異常に怯える俺だったが、殺人の行われた部屋に住み、殺人犯と知らず深夜に接触してしまった事で、精神衰弱に陥っていると受け取られたようだった。
会社からも、無理せず休職するよう言われた。
それで、不本意ながら自宅警備員してるんだけど……
眠れない。
処方された睡眠薬を飲んでもいいんだけど、どうしても確認しなきゃいけない事があるから。
彼女は法廷にまで現れた。自分に霊感なんてあるとは思っていなかったから、本気で意味が分からない。でも、あの便箋を受取って、読めてしまって、憑りつかれているのは殺人犯じゃなく俺なのだ。
もうすぐ、4時半。
「……」
部屋の電気を全部点けて、テレビも点けて、スマホからはロックを流して、フライパンを片手に玄関を凝然と見つめて待つ。
心拍数が爆上がりしてるし、汗だくだし、なんなら吐きそう。
「……」
来るか?
来るなら本人?
それとも御手紙?
「……」
そんな感じで怯えていると、郵便ポストがガチャンと動いた。
「ひいっ!!」
恐る恐る便箋を開くと、そこには。
『お前の悪事を暴いてやる。絶対に逃がさない』
「……?」
息を殺してドアスコープを覗くと、そこには……
「……」
法廷でお会いした初老男性が全力で睨んでいる。
雇われシルバー管理人の息子であり、殺人犯の父親に当たる人物。
「……っ」
どうして、こんな目に。
ええと、警察に相談と、また引っ越さなきゃだから不動産屋と、あと……
「……寒いの。助けて、おじさん」
「……」
お祓いも行かなきゃ。
(終)
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