1 リモコン騒動

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1 リモコン騒動

『大変恐縮ではございますが、そちらのリモコンに反応してエアコンが点いたり消えたりしてしまうのです。角度を変えて頂くなど、お手数ですが対処をお願い申し上げます』 「え……?」  今は4月。  エアコンなんて、使ってないんだけど。  とりあえず勘違いだろう。  手紙だけ四つ折りに戻して、郵便物をまとめてあるケースにしまった。  ちょっとの懸念を抱いたまま、その日も出勤して、忙しい1日をやり過ごして帰宅。郵便受けにはDMが3通。 「ふぅ」  思いのほか、かなり安堵した。  シャワーを浴びて、スーパーで買ってきた半額の餃子とイカリングをつまみに缶チューハイで晩飯。少し動画を見てリラックスしてからベッドに入った。  翌朝。  ──ガシャン。 「……?」  派手な金属音で目を覚ました。  スマホを見ると、まだ4時半。早い。早すぎる。 「ぅあ~……」  安眠を妨害された絶望感で、再び枕に顔を埋める。  その直後、バッと起き上がった。 「……嘘だろ」  もしかして、あのエアコンさん?    うちは新聞なんて古めかしくてコスパの悪いものは取ってないし、郵便が配達される時間でもないけど、あの音は普通に考えても郵便受けの音だ。  嫌な気分のせいで、地味に目が覚める。  仕方なく1Kの扉を開けて、短い廊下を進み、玄関の電気を点けて屈みこみ郵便受けを覗いた。 「……」  あった。  もうしょうがないから読んだ。 『度々のお願いで恐れ入りますが、やはりリモコンが反応して、こちらで点いたり消えたりしてしまいます。温度なども影響され、申し訳ないのですが当方困っているため、ご対応頂けないでしょうか? お手数をおかけし、また不躾なお願いで申し訳ありません。何卒、よろしくお願い致します』 「うーん……」  丁寧な文章で字も綺麗だし、たしかに困っていそうだし、迷惑な事には違いないけど、うちじゃないんだからどうしようもない。  とりあえず両脇の部屋、つまり504号室と506号室に同じ手紙を入れる事にした。 『連日お知らせ頂いた件について。心中お察しいたしますが、この季節エアコンは使っておりません。部屋違いとなりますので取り急ぎお伝えいたします。尚、部屋番号の記載がない事から両脇の部屋に同じ御手紙を入れさせて頂きました。心当たりのない部屋の方は、ご容赦ください。  505住人』
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