千夜

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 気のせいかも知れないけれど、一度だけ彼女によく似た女性を見かけたことがある。  結婚し、子どももでき、ある程度落ち着いた生活ができるようになったころ、少し仕事で遅くなったことがあった。  少し肌寒い秋の夜、彼女は何をするでもなく、ただつまらなそうに、秋の夜空を見上げていた。行き交う人々は、まるで彼女が見えていないかのように、忙しなく通り過ぎて行った。  あの夜の私のように、彼女に話しかけるものはいない。  その日見かけた彼女がチヨ本人であったのかは定かではない。直接話しかけて、確認することもしなかったし、仮に本人であったとしてもチヨがそれを望んでいないということは重々承知であった。  私はただ、彼女がどこかで幸せに過ごしていて欲しいと思った。寂しい思いをすることなく、誰かに傷つけられることもなく、明るくて安全な道をただただ完全に歩んで行って欲しいと思った。  そして、それは、できたら、彼女1人ではなく、ほかの誰かと。  私はそう願いながら、彼女から目をそらし帰路へとついた。
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