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レストランへ着くと、小塚さんは「八時に予約していた小塚です」と、手慣れた様子で、白髪のウエイターに話しかけた。
ウエイターは恭しく、「お待ちしておりました」と腰を折り、奥のほうへ私と小塚さんを案内した。
一番奥の席には、栗色の柔らかそうな髪の女の人がひとり、ぼんやりとしながらも、どこか落ち着かない様子で伏し目がちにすわっていた。
外には夜景が広がっていて、それがより彼女の雰囲気というか、なんというか、とにかく彼女の美しさを際立たせているようだった。
「あゆみ」
私の一歩前を歩いていた小塚さんがそういうと、あゆみと呼ばれた女の人は驚いたように顔を上げた。
あゆみさんは小塚さんを見て、固まった表情を柔らかくしようとしたが、失敗したようで顔を歪めたようにしか見えなかった。
それから小塚さんはさらに一歩前へ出てから、彼女はようやく私の存在に気付いたようだった。
「どちらの方……?」
あゆみさんと目が合った。とても、きれいな人だった。
「こちらはチヨさん。僕が今付き合っている人だよ」
あゆみさんの瞳が大きく見開かれた。
「颯太と……?」
「うん。そうだよ」
私の位置からは小塚さんの顔は見えないけれど、彼はきっと、やさしい笑みを顔に浮かべているのだろうな、と彼の背中を見ながら思った。
さっき、私に話しかけてきたときとはまったく違う笑顔を。
「だから、あゆみはもう僕のことなんか気にしなくても大丈夫だから」
あ、そういうことだったのか。
このとき、やっと私は悟った。出演者は当人たちと、私という安っぽいキャスティングだけれど、最初からこれはただの安っぽいナンパではなかったのだ。
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