3人が本棚に入れています
本棚に追加
2 首落としの子
都内で2LDK、しかも駅チカ。
これは相場の5分の1? 6分の1?
とにかくこんないい物件に月3万弱で住めるなんて、フツーにラッキーだ。
──ザッ。
「?」
物音がして振り向くと、引っ越し業者が各部屋に積んでくれたうちの、リビングに置いた本棚の脇のダンボールが30センチ60度くらい動いている。
さっそくお出まし。
しかも怪力。
「ふぅ。よろしくよろしく、っと」
窓を開け放って軽く掃除を済ませる。
爽快感に口がにやけて仕方ない。
僕は生まれつき霊感があるらしく、物心ついた頃には人間と幽霊の区別があまりついていなかった。それが成長するうちにだんだんわかってきて、小学校卒業の時点では人前で幽霊をスルーする必要性を学んでいた。
実害が出る場合もあるけれど、中学の3年間はなんだかんだ逃げ回って過ごし、高校で先輩と出会ったおかげで被害が軽くなった。一際霊感の強い先輩のほうに行ってしまうし、その頃には同級生に寺の息子やら霊能者の知り合いやらが現れ始めて、助けてもらったりして。
その後は大学受験に失敗して、見切りをつけて就職したのもあり、忙しくて幽霊になんか構っていられなくなったのだ。
思い残した事はあるのだろうけど、生きてる人間の生活の邪魔するなんて迷惑極まりない。
ところが、徹底的にスルーするはずだったこの物件の幽霊は初めて遭うタイプだった。
まず、ポルターガイストは確かに煩い。でも僕の霊感に気づいた幽霊は、恐がらせるというより構って欲しそうな主張をし始めた。
確信したのは転居10日目の夕食時。
テーブルの向かいに少女が現れた。
席について皿を覗き込む様子は無邪気で、なんだか姪に懐かれてるおじさんの気分になった。7才くらいだろうか。小さな手で僕のオムライスを掴もうとしたので、止めた。
「だめっ」
だって、この子、物理的に介入してくるタイプの幽霊だし。
「……」
少女はきょとんと僕を見あげ、しばらくじっと考え込んで、やがて頬杖をついた。
「前の人は話してくれなかった?」
オムライスを食べながら話しかけると、少女はコクンと頷いた。
「声は出るの?」
少女は首をふって俯く。
「そっか。こっくりさんわかる? ああいう、文字の並んでる紙を用意しようか? そうすれば、おじさんとお話しできるよ」
少女は、試しに話してみようと思ったらしく、口をアーと開けた。
一口もらうみたいな口で、ちょっと可愛かった。
最初のコメントを投稿しよう!