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2 監禁
『うそつき! ママに会わせてよ!!』
4畳の洋室に誂えた檻の中で、アヤノが泣き喚く。
気の強い性格なのか、癇癪もちなのか。
どちらにしても私はモニターから眺めるだけだ。
気楽なものだった。
部屋は完全防音で、暗闇に赤いライトがひとつ。私は食事の世話で日に3回足を運ぶだけでいい。
もっと意気消沈するかと思いきや、親の教育がいいのか血筋なのか、やたら気丈にふるまっている。負けを認めたら終わりだという事を、よく理解している子供だ。
『ママァーッ!!』
「ふん。ママに聞こえるわけないっつの」
『ママアァァァァァッ!!』
そのまま声が嗄れるまで叫び続ければいい。
家事やちょっとした用事を済ませて、夕食を作る。
少し考えて、アヤノにはパンとシリアルを用意した。最初の夜だから、少し贅沢をさせてやろう。
パーティー用のウマのマスクを被る。首の内側から外を見るタイプだ。
視界が悪い中でトレイを持って、階段をあがる。
その頃にはアヤノもだいぶ静かになっていた。
ドアを開ける。
檻の中で膝を抱えて座っていたアヤノは、暗闇の中からじっと私を睨みつけた。
「こんなの、パパが許さないんだから」
廊下からの逆光で私がウマのマスクを被っているのがわからないのだろうか。
期待した反応ではなかった。
もっと恐がってもらわないと、連れて来た意味がない。
「イッヒッヒ。おウ~マさぁ~んだよぉぉぉぉぉ」
「……」
怯えたようだ。
私は気をよくして室内に入り、檻の前にしゃがみ込んだ。
檻の間からアヤノの顔をよく見ようとしたら、ウマの顔の部分がつっかえた。そうだ、私の視界はウマの首なんだった。うっかり。
「残したら、明日からはあげないよぉ~」
「タイホされるんだから。それで、ムキチョウエキになるんだ」
「ちがうちがう。アヤノがボクのペットになるんだよぉ。この!」
檻を叩く。
「ケージの! 中で! ボクに! 飼われて!」
一言ごとに檻を叩いて脅すと、アヤノはますます膝を抱えて縮こまった。
泣けばいいのにと思っていたら、やっと、また、啜り泣きを始める。
「ここに置いていくね。残さずにちゃあんと食べるんだよ。アヤノ」
「……っく、ひ……っ」
「返事しろ! 人間のガキィッ!!」
檻を揺さぶって口汚く吠え散らかすと、アヤノが声をあげて泣き出した。
「あああはははははははッ! ひぃぃっ! ヒハッ! ざまあみろ!」
笑いが止まらない。
ウマのマスクの中は蒸れて熱くなっている。
「ママアァァァァァッ!!」
こうでなくちゃ。
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