7月6日のこと

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宿題の共としてつけていたテレビが、次は天気予報のコーナーです、と告げる。まもなく六時半。もうそろそろ我が家では夕食の時間だ。きりよく終わったので、さっさとダイニングテーブルの片付けに取りかかる。 消しかすを集める傍ら、見慣れた気象予報士が天気の解説を始めた。爽やかで人に好かれそうな雰囲気のお姉さんだが、僕は彼女が好きではない。よく外すくせに謝るどころか悪びれない様子で天気予報をしているのが許せないのだ。それで気象予報士がつとまるなら僕だってやりたいといつも思う。ローカル局の情報番組とはいえ、不特定多数の人前で適当なことを言って、外しても咎められず、それでいて給与が貰えるなんて、夢のような仕事ではないか。 明日は一日中雨だと予報する彼女の声に、ペンケースのチャックをしめる音が重なる。今日の予報も外しているくせにまた堂々と自信ありげに言っているのが腹立たしい。 「​──あー、明日は一日中雨か」 洗濯物を取り込み終えた母がテレビに近付きながら残念そうに言う。 「明日は七夕なのに。せめて夜くらいは止んでほしいわ。去年も雨だったし、二年連続で会えないなんて織姫と彦星がかわいそうよ」 「天体に雨も何も関係ないでしょ」 「そういう話じゃなくて、気持ちの話としてよ。離れ離れで連絡も取り合えず働き詰めになっている二人が、たかが雨降っただけで二年も会えないなんて、想像したらかわいそうじゃない?」 「別に。だってそこに至るまでの経緯が自業自得みたいなものだし」 雨でも助けてくれるカササギの話はあえて出さないことにした。僕とは違う引き出しを開けながら話を続けようとする母なので、面倒なことになることは目に見えている。 そうとも知らず当人は、あんたはもう少し乙女心を分かれと、僕をまるで朴念仁だとでも言いたげに責めた。これはこれで少し面倒くさいが、被害が軽減できただけましということにしておく。 「まあ、でも」 話題を逸らし、整えて、本来の方向に持って行く。 「この人が言うんだしどうせ止むでしょ。いや、むしろ日中降るかも怪しくない?」 母は物足りなさそうな雰囲気をわずかに残しつつも、そうね、と話に乗ってくれた。 「この子の予報だと明け方にちょろっと降って終わり! なんてこともあるかもね。……なんて言ってたらホントに当たるかもしれないし、一応折りたたみ傘持ってきなさいよ。あんた明日追試で遅いんだし。あとそれ早く片付けなさい、ご飯すぐできるから」 言いながら、母はキッチンに入って晩御飯の支度にかかる。さっきまでのことは既に忘れている様子だ。忙しない。僕も適当に返事をして、教科書とノートをまとめてると、部屋に持って行く。七夕という話題は完全に、日常にかき消えていた。 リビングを出る前、ちらりとテレビを見る。天気予報は既に終わって、肉の話をしていた。
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