55人が本棚に入れています
本棚に追加
放課後。
教室の掃除を終えて、私はゴミ捨てに来た。
ゴミ捨て場は、学校の裏手にあった。
一人ゴミ箱を持って、校舎を出た。
その時だった。
「由乃。」
理人の声が聞こえた。
体がビクッとなって、周りを見渡すと、フェンスの向こう側に、理人がいた。
「理人。」
私は、フェンスに近づいた。
「何で、こんなところにいるの?」
「由乃に会いたくて。」
私に会いたくて?
ちょっとだけ、嬉しくなった。
けれど、直ぐに不安になった。
理人が私に会いたくなる時は、彼の身に、何かあった時だ。
「理人、何かあったの?」
「ううん。ただ、顔見たくなっただけ。」
「それなら、家に帰れば、会いたいだけ会えるじゃん。」
彼は、首を横に振った。
「家には、親父もお袋もいる。」
胸が痛くなった。
理人は、私を一人の女として、見ている。
姉じゃなくて、普通の女の子。
「理人、あのね。」
このフェンスが、私達の間を塞いでくれればいい。
「やっぱり、私達。愛し合っちゃいけないと思うの。」
すると、理人はフェンスの穴から、腕を出した。
「由乃。手、貸して。」
ゴミ箱を持っていない手を、理人に差し出した。
理人は、私の手をぎゅっと、握ってくれた。
温かい。
理人の優しい気持ちが、伝わってくる。
「由乃。俺、この前言ったよね。由乃の事が好きだって。」
「聞いた。でも、私達姉弟だし。」
「そんな事、関係ないくらいに、由乃の事が好きなんだ。」
息をゴクンと飲んで、深呼吸をした。
「由乃……」
また理人の、切ない声。
この声が、私を惑わせる。
最初のコメントを投稿しよう!