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「理人……」
思わず、理人の手をぎゅっと、握り返してしまった。
その瞬間、グイッと引き寄せられて、フェンス越しに私達はキスをした。
その時、遠くから笑い声が聞こえて、私は理人を突き放した。
「困るよ……こんなところで……」
「何で、困るんだよ。」
私は顔を上げた。
「分かってるでしょう?こんなところでキスしてたなんて、変な噂がたったら。しかも、相手が理人だって、親にでも知られたら……」
「じゃあ、言えよ。親に。」
「言える訳ないでしょう!」
親に、理人とキスしたなんて言ったら、私達どんな扱いされるか。
でも、理人は反対に、泣いていた。
「俺達が、後ろめたい事してるからか?答えろよ!」
「そうよ!こんな事、誰にも言えないわ!」
「だったら、もっと怒れよ!俺の事、突き放せよ!!」
「そんな……」
私は、息を飲んだ。
「そんなってなんだよ。俺の事、蔑めよ。変態だって、罵ってくれよ!」
理人は、フェンスに両手をついて、息を切らしている。
「理人……」
そうだよ。
理人の言う通り。
もっと理人の事を怒って、突き放せばいいのに。
どうして、私はできないんだろう。
答えは知っている。
私も、理人の事が好きなのだ。
弟以上に、彼を愛しているからだ。
「……できないよ。」
理人が顔を上げる。
「できないよ。理人を突き放すなんて。」
「由乃……」
私は、ゴミ箱を置いた。
そして、フェンスの穴に手を入れ、理人の涙を拭いた。
「私も好きなの……理人の事……」
理人の瞳が、大きくなる。
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