1話 結果待ち

2/4
前へ
/79ページ
次へ
ドレスコードのフレンチのお店に行き、少し高いホテルに入る、いつものコース。 「凪、気持ちいい?」 「……うん、気持ちいい……」 いつもは気持ちよくて、何回もイってしまう。 なのに……。今日は何も感じない。 作った甲高い声を出す自分に嫌気がさしてくる。 体を這う指先が無機質なものに感じて、優しく触れる飯塚さんの熱い手が私の肌の上で冷やされていく。 飯塚さんの所作のひとつひとつから、これは愛のない行為なんだということが伝わってくる。 今までは何ともなかったのに……。 本当に想われ、触れられる指先の感触を知ってしまった私には、酷な行為にしか感じなかった。 ――『いっぱいした方が感度が高くなりますよ』―― 拓己さんは嘘つきだ。 飯塚さんとしているのに、拓己さんの顔が浮かんでくる。 救いを求めるかのように。 あんなに好きだったのに、未来はないとわかっていても諦めきれないほどに。 視界がかすんで飯塚さんの顔がぼやける。 「凪、どうした?」 「ごめ、なさ……」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「どうしました」 「どうしてくれるんですか……全然感じませんでした」 拓己さんの顔が険しくなる。 冷えた風が髪の間を掻き分けて私の首筋を冷やす。 とりあえず、と部屋の中に通される。 リビングには大きなダークブラウンの革のソファがあり、そこに腰掛けるよう勧められて座る。 彼は違う部屋に行ってしまった。でもすぐに戻ってきて、横に座る。 体をこちらに向けながら顔を覗き込まれる。 「エッチしたんですか」 「……しましたよ。すごく嬉しくて、なのに全然気持ちよくなくて。……おまけに拓己さんの顔がでてくるし……」 思い出しただけで鼻の頭から目頭に熱が集まってくる。 彼は呆れた顔で私に濡れタオルを渡す。 もらったタオルを目元にあてると、腫れて赤くなっていた瞼が冷やされて気持ちがいい。 「まあ、そうでしょうね。そうするように仕向けましたから」 「へっ?」 タオルを外して拓己さんの方を見る。 彼は足を折りたたんでソファの上にのせ、クッションを胸の前で抱いていた。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

359人が本棚に入れています
本棚に追加