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「僕が『好きな人の恋が実るまでの間だけでいい』って本当に思うわけないじゃないですか。そんなにいい人じゃないですよ。相手、ろくな奴じゃなさそうだし」
急なこと過ぎて頭がついて行かない。
無言の私を弄りながら拓己さんは続ける。
「もう凪さんは僕じゃないと満足できないと思いますよ」
「そんなっ」
私の髪をくるくると巻いて遊んでいる拓己さんと目が合う。
見たことのない光のない鋭い目に見つめられてゾクっと背筋が凍る。
「大丈夫です。責任取りますよ、一生」
拓己さんは私を横から抱きしめる。
彼の体温が伝わってきて温かい。
ボディソープの香りがふわっと香る彼がさっきの表情をしていたとは思えなかった。
彼がバッと体を離し、私の両肩に手を置く。
「ってことで、僕の彼女になってくれますよね。離れられないんだし、いっそ結婚します?」
「結婚!? 変な冗談はやめてください」
拓己さんはキョトンとした小動物のような顔をする。
なんでダメなのかわからないといった顔で見つめられて、思わず目を逸らす。
彼はおおげさに溜息を吐く。
「はぁ~あ。わかりました。結婚はもう少し待ちますよ」
「ありがとうございます」
……ん? ありがとうございます?
今の返答はおかしいよね。待ってもらうって、もう結婚する前提みたいに――
「それで、その男とどこまでしたんですか」
「途中までです」
「具体的に」
「……指を、その、私の中にいれて、動かすといいますか……」
彼は目を閉じて、また大きなため息をつく。
目をゆっくり開くと、私の肩をそっと押し、ソファの背もたれにもたれかけさせる。
「……わかってはいたんですけどね。すいません。今日はちょっと優しくできないかもしれないです」
彼が私に馬乗りになり、キスをする。
下唇を何度か食まれて持っていかれる。
開いたくちびるに熱い舌が入ってきて私の口内を余すところなく舐めとる。
「上書きしないと」
「え?」
「心配しないで、気持ちよくさせるから、ね」
私の頭をポンポンと撫でて、拓己さんはまた別室に行ってしまった。
少し経って帰ってきたときに手に持っていたのは真っ赤な縄だった。
「それ、使うんですか」
「ええ。もちろん」
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