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第10話 試される家族愛?(前編)
猫会議の翌日深夜、オレ達はハツの家の前に集合した。
もうすっかり見慣れてしまったハツの家の正面入り口。
ドラ「もうここに来て何度目になる?」
思わずレオに声をかける。
レオ「安心しろ。それも今日で終わりだ」
背中に例のボストンバックを背負いながらレオが自信たっぷりに言う。
ハル「なんだドラ、ビビってるのか??笑」
ドラ「んなわけねーだろ!」
軽くハルの頭をはたきながらオレは言った。
作戦前の緊張感…嫌いじゃないぜ。
とにかく今日の俺たちは運も味方につけているようだ。いつもは閉まっているはずの正面入り口(本来は人間たちが出入りする場所)の柵が開いていたのだ!
当初は3匹でぬいぐるみを被ってから狭い穴(前回ハルが使った穴)から敷地内に入る予定だったのだがこれによりぬいぐるみを被り、堂々と正面から入っていくことができる。
オレ、レオ、ハル順番に並んでからぬいぐるみを被ってみる。
前方は、よし!しっかり見えるぞ。
そして今回は、不自然に胴体が曲がらないようにハルはレオの、レオはオレの肩をしっかり両手で抑えバランスを取りながらそれぞれ2足歩行で動いていく。ちなみに動くときは最初は右足・次は左足の順番だ。
…ふと思ったのだがぬいぐるみがなかったらとんだ仲良し3人組に見えるかもしれない。しかし今回の作戦にはどうしてもこのフォーメーションが必要なのだ。
各々すべての準備が完了した。
ドラ「準備はいいか?」
ぬいぐるみの中で2匹に声をかけた。
レオ「おう!」
ハル「ドラ!あとは、任せるからな」
ぬいぐるみの中から返事が返ってきた。
ドラ「よし!行こう!」
のそのそのそ…少しずつ6本足のゴールデンレトリバーが行進を始めた。
のそのそのそ…よし。敷地内に入った。サリーはどこだ?…いた。座ったままではあったがこちらをまっすぐ見ている。その顔はいつもより険しく、警戒心をむき出しにしているのかが分かる表情だ。
さすが一流の番犬だ。こんな夜更けに突然現れた来客にも最初から馬鹿みたいに吠えるのではなく、距離を取ってまずは害ある存在かそうでないかの情報収集を冷静に行っている。敵ながらあっぱれだ。
本来であればここでサリーが生き別れた兄弟だと気付き、好意的に近づいてくれればベストだったがそんな展開は望めないようだ。ならば作戦を進めるしかない…
ドラ「ヒソヒソ?(よし、声をかけてみるぞ?)」
中にいるレオとハルに声をかけた。
レオ「ヒソヒソ…(慎重にな…)」
ハル「ひそひそ(がんばれ)」
ドラ「…元気だったか?あ…あ…会いたかったぞ!!」
声を震わせながらサリーに話しかけてみた。
その途端、サリーは立ち上がり前屈みになり
サリー「ガルルルル…」
とオレ達に向かって威嚇を始めた。
やばい!怒らせたか?どうする?どうする?どうする?
急にてんぱりだすオレ。頭をフル回転させて何か策がないか考えるが何も思いつかない。やばいやばいやばい…絶望的な気持ちがオレの精神を支配しようとしている。
オレの肩に手に掛かっているレオの手が震えている…後ろを振り返るとレオは下を向き、ハルは不安そうな顔をしてオレを見ていた…2匹とも絶望している。
オレがこの危機を何とかしないと!
2匹の顔を見ると逆に恐怖と不安が消えていき、冷静に物事が考えられるようになった。しかし、そんな都合よく新しい策など見つかるわけもなくオレにできることは作戦を進めることしかなかった。
ドラ「どうした?忘れちまったか?オレだよ、オレ!お前のお兄ちゃんだよ!!」
オレは腹を決め、サリーに向かって叫んだ。
しまった…勢いでお兄ちゃんと言ってしまったがはたしてサリーに兄貴はいるのだろうか?当初は兄・姉・弟・妹どのタイプにも合わせられるような話し方で考えていたのにあまりの状況に緊張し、お兄ちゃんと確定してしまった…
するとサリーがピタッと一瞬体の動きが止まった。そして一瞬確かに不敵な笑みをしたように見えた。嫌な予感がする…
サリー「ワォーン」
サリーは天に向かって叫んだ。そしてこちらに向かって立ち上がり、尻尾をブンブンに振っている。その顔はいつもより目が垂れ下がり、うれしそうな・悲しそうな何とも言えない顔をしているように見える。
よし!うまくだませたぞ!
オレは確信した。そして、後ろにいるレオ・ハルに声をかけた。
ドラ「ヒソヒソ。ヒソヒソヒソ(うまくいった。こっちに来るぞ)」
レオ「ヒソヒソ。ヒソヒソ?(分かった。ハル準備いいか?)」
ハル「ヒソヒソ!(いつでもいいぜ!)」
オレの報告にレオとハルもさっきまでの不安そうな顔が晴れていた。
そして、サリーはゆっくりこちらに歩き出して来た。
オレ達もゆっくりサリーに向かって歩き出す。
ぬいぐるみを脱ぎ捨てるまであと10歩くらいか?…9歩…8歩…
レオの手がまた震えているのが分かる…オレも緊張してきた…
7歩…6歩…
ハル「(ゴクッ)」
ハルが生唾を飲み込む音が聞こえる…
5歩…4歩…3歩…
その時事件が起きた。目の前のサリーは急に動きを速めオレ達の後ろに回り込んできた。
ドラ「サリーが後ろに回った!」
ぬいぐるみの中でオレはレオとハルに声をかけた。
レオ「なに?オレ達もすぐに反転しないと!」
ハル「え?どうやって反転するんだよ…」
すぐに反転などできないオレ達!突然のことに3匹の息が合わずくねくねと不信全な動きをするオレ達。
その時後ろにいるサリーが動いた!ぬいぐるみのお尻あたりをガブッと咥えると塀に向かってぬいぐるみを咥え飛ばした(投げ飛ばした?)のだ。
ぬいぐるみだけを剝ぎ取られ、そこには頑張って2足歩行で立っているオレとレオの後ろ姿が現れてしまった。恐る恐る2匹で後ろを振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべたサリーがいた…
ドラ&レオ「ぎゃーーーーーーーーー!!!!!」
そう叫ぶと取り敢えず走り出した。
サリー「ワン♪ワン♪」
当然のようにサリーが追いかけてくる。
クソっ、あいつは最初から気付いていたんだ。まんまと踊らされた…
走りながらオレは悔しさのあまり泣いていた。
また地獄の鬼ごっこが始まった。
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