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第2話 猫会議を前に…
神社へ向かい歩いていると………どこからか視線を感じる。
…あいつだ。
案の定周りを見渡すと真っ黒な猫がこちらを見ている。
黒猫でオス野良猫の【シャドー】だ。とても無口なので誤解を受けやすいがオレ達は知っている。あいつは幼い弟を一人で育てながら生活している苦労人なのだ。
なぜか知らないがシャドーはよく俺たちの前に現れる。
ドラ「おい~っす、シャドー。調子はどうだ?」
シャドー「………」
ドラ「相変わらず無口だな。今から神社で会議があるんだけど来るか?」
シャドー「……これから家に戻るところだ」
ドラ「…そうか。まー、気が向いたら今度遊びに来いよ?」
シャドー「………コクッ」
軽くうなずくと草むらへ入っていった。何回も言うが決して悪い奴(猫)ではない。
やっとのことで朝のルーティン散歩が終わりとりあえず巣穴のなる神社へ戻ってきた。なんか思ったより変な汗をかいてしまったのでいっそのこと水浴びをしてやろうか悩むところだ。
この後は仲間たちとこの神社で猫達による話し合い「猫(キャット)会議(ミーティング)」が開催される。…といってもオレも含め3匹の猫が目標達成のために作戦会議を行う名前の割にはごくごく個人的な集まりなんだけどな。
参加するのはオレのほかにはサバ柄でオスの野良猫【レオ】と白黒でぽっちゃり折れ耳のオス飼い猫【ハル】だ。
軽く説明すると…
【レオ】は、物心ついた時からいつのまにか一緒にいて、出会いも忘れてしまったくらい長い付き合いだ。冷静で頭がよく、喧嘩だって俺と同じくらいの実力派だ。その上仲間思いってなもんだからメス猫共にも人気がある。時々信じられないようなミスをすることがあるが、オレがこの世で一番信頼している相棒だ。
【ハル】は、この辺の家に飼われている飼い猫だ。最初はオレとレオの後をずっと付けてきて「仲間に入れてくれ」と毎日言ってくるストーカーだった。その後の話は長くなるからまた今度話すが、色々あって今は一緒に行動している大切な仲間だ。デブでのろまで天然だがなんかほっとけず、不思議な魅力のあるやつだ。
そんなオレ達が集まって何を話し合っているかというとずばり「オレ達の居場所づくり」だ。今のたまり場になっているこの神社もいいのだがやはり人間どもが寄り付かなくなってしまった影響で建物の老朽化が深刻になってきている。部屋のふすまは開きづらいし、夏は灼熱・冬は極寒という修行のような環境で、セキュリティーなんて皆無だから他の動物たちの侵入もすぐに許してしまう。このままでは今までの経験上人間どもがいろいろな理由をつけて確実に建物を壊しにやってくる。そこでオレ達は今から新しい住処を探しているというわけだ。
候補地はもう決まっているのだがそこには恐ろしい敵がいて、ほぼ毎日話し合いを行っている。
候補地も実はたくさんあった。「近所の鈴木家」「お滝さん(小さい滝)の近くの洞穴」「誰も来ないふれあい公園」「公民体育館の物置」など、一つずつ3人で話し合いを続けてきた。
時にはこぶしを交え、時には涙を流しながら熱く語り、結局話がまとまらずに「引越ししなくていいんじゃね?」となった時もあった…でも最終的にはオレの第一希望でもあった「ハツの家」に決まった。
ハツの家は、【ハツ】という80歳くらいの人間の老人が1人で住んでいる小さな一軒家である。南向きのベランダに木のぬくもりを感じる縁側、軒下から部屋に侵入できる通路の豊富さ、(勝手な予想だが)家主が老人なので部屋に侵入してもどうせ気付かれないだろう?という安心感、家のすぐ裏の山にはまたたびの木が生えていることも調査済みだ。周りをコンクリートの塀で囲まれており外敵が侵入しずらく、たとえ侵入したとしても敷地内で放し飼いにされているハツの飼い犬ゴールデン・レトリバーの【サリー】に追い掛け回されるというセキュリティーも完璧だ。まさにオレ達のために用意されたような物件なのだ。
しかし、問題は最初にどうやってこの悪魔の化身【サリー】を攻略し家に侵入するかということである。ぶっちゃけ侵入さえしてしまえばハツなんかはどうにでもなると考えている。しかし、そこに行くまでが一番の問題だ。何だったら今後のことを考えると、自由に出入りするためこの「犬ころ」をいかに手懐けるかも考えないといけない。オレ達猫だけでこの大きな問題を解決できるのだろうか…
しかし、奥様方よ!安心してほしい!!我々には最高の相棒でありながら最高の軍師でもある【レオ】様がいる。こいつが今から行く猫会議でビシーッと名案を授けてくれるはずだ。だからオレはこれからそれを聞きに行く。はっきり言って、ただそれだけのために神社へ向かうと言っても過言ではない!!
しかも、こんな巨大な夢を追いかけているオレ達に【ハル】が教えてくれた言葉が心の支えになっている。その言葉を特別に教えてやろう。ズバリ…
「諦めたらそこで何かが終了ですよ?」
だ!!!
ハルの話によるとハルの小さい飼い主(名前は忘れた…)がいつも家の周りで茶色いボールを追いかけているらしい。そして、そのボールを追いかけている途中で必ずどこかで転んでしまう。そんなときに大きな飼い主(多分親)が現れ、小さい飼い主に「諦めたら何かが終了ですよ?」と優しく声をかけるらしい。そうするとまた小さい飼い主はボールを追いかけるようになるという魔法の言葉なのだ。安産だか冤罪とかいう名前の人間が最初に言ったのが始まりらしい。
確かに「夢」というのは諦めて何もしなくなったらそこで終わってしまう。逆に言えば諦めずにずっと挑戦していれば終わることはない。素敵じゃないか…
ハルのくせにいい言葉を知っている。だからオレ達は挑戦し続ける。
なーんて語っていたらそろそろ遅刻してしまう。
さあ、どんな作戦でサリーを攻めてやろうか…
そうつぶやきまたオレは神社に向かった。
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