第3話 猫会議(キャットミーティング)

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第3話 猫会議(キャットミーティング)

いよいよ神社へ着いた。 正面のふすまを前足を使って開け、中に入る。そこには埃っぽくかび臭い部屋があり、真ん中にみかん箱を裏返した簡易的な机とその周りに木の丸太を雑に切っただけの椅子が3つ置かれている。しばらく前にシゲルに頼んで用意してもらったものだ。 2つの椅子にはすでに2匹の猫が座っている。【レオ】と【ハル】だ。オレも空いている椅子に座りながら2匹に声をかけた。 ドラ「おーっす。2匹とも早かったな。待たせたか?」 ハル「おいーっす」 レオ「お疲れ~。オレらも今来たところだよ。今日は珍しくハルが1番だったんだぜ?」 ドラ「珍しいな。具合でも悪いのか?」 ハル「なんでだよ!なんか昨日から飼い主同士が喧嘩してて家にいずらいんだよ…」 ハルは3人暮らし(こども1人)の家に飼われている。 ドラ「なんだ?【明美】(子供の名前)機嫌悪いの?」 ハル「なんでお前はいつも会ったことねー他人の飼い主を呼び捨てにできるんだ?」 ドラ「だって明美だぞ?」 ハル「意味が分からん。言っとくけど明美はちょっとしゃくれた超絶美人だからな?」 ドラ「……」 ハル「無視かよ…」 レオ「そろそろ始めていいか?」 変な空気に耐えられなくなったレオがオレ達に声をかける。特に決めたわけではないが気付いたらしっかり者のレオがこの会議を仕切る形になっている。 ドラ&ハル「ハーイ」 声がそろってしまった… レオ「ではこれから第6回猫会議を始める。まずはハツ家を占領するためにオレが考えてきた作戦を発表する。その後に2人の意見も聞かせてほしい。」 ドラ「よっ!いいぞ!!」 ハル「このイケ猫(イケメン)が~」 レオ「静粛に!まずは大事な作戦名だが………ずばり、「ドキドキ♡真夏のドロップキック」だ」 ドラ&ハル「………」 頭のいいレオはいつも作戦を考えてきてくれるのだが、頼んでもいないのに毎回作戦に名前を付けてくる。いつもはもう少しまともな作戦名なんだが今日のはひどい…オレは不安になってきた。 レオ「……作戦はこうだ」 気にせずレオが続ける。 レオ「まずはオレ達は2組に分かれる。オレとドラの攻撃チームとハルの囮チームだ。ハツの家のブロック塀の中には何本か木が生えているよな?」 ドラ「ブロック塀より少し背の高い木だろ?」 レオ「それだ。まずはオレとドラでサリーに気付かれないようにその木の上に行き、待機する。いい感じで葉っぱもついているしあのあほ犬からこっちは見えないはずだ。」 ドラ「…」 レオ「次にハルの囮チームだがオレ達が木の上に侵入できたのを確認したら行動開始だ。その木が生えているところから左に6番目のブロック塀の下に猫一匹がギリギリ通れる穴を掘っておいた。そこから敷地内に侵入し……」 ハル「………(ゴクッ)」 レオ「…丸まってじっとしといてくれ! 得体のしれない毛むくじゃらの丸い物体を見つけたらサリーは警戒しながらも確実にゆっくり近づいてくる。そしてサリーをギリギリまでおびき寄せたら……」 ドラ&ハル「……おびき寄せたら?」 レオ「オレとドラで木の上からサリーにダブルドロップキックをお見舞いする! 考えてもみろ?真夜中に得体のしれない丸い毛むくじゃらを見つけて警戒して近づいてみたら、突然横からドロップキックが飛んできて吹っ飛ばされるんだぞ?奴にとってこんな恐ろしいことはないはずだ。 その後サリーは、一度は混乱して家の裏の方まで逃げていくだろう。しかし、状況確認のために必ず戻ってくる。そこでオレ達が並んで仁王立ちをキメ、とどめのひと睨みを食らわせる! これによりサリーはオレ達に恐怖しか覚えず、その後忠誠を誓ってくる。もしかしたらひっくり返り服従のポーズをその場でやるかもな?そんなことがあったら猫の中でも歴史的な快挙だぞ?? はっはっはっはー…… …(コホンッ)あとは堂々と家に侵入し、あのばあさんをたたき起こしてオレ達との同居を認めさせれば終わりだ。これが「ドキドキ♡真夏のドロップキック」の全容だ。…どうだ?」 ドラ&ハル「…………」 レオ「どうなんだよ?」 オレはゆっくり立ち上がり、まっすぐレオの目を見て ドラ「お前は天才か??」 最高の賛辞を贈った。 ハル「完璧すぎてオレは少し震えてるぞ??」 ハルも続いて言う。 レオ「やめろよ…あんまり照れるから誉めるんじゃない…」 ドラ「いや、ここは言わせてくれ!お前はマジで最高の相棒だ!!」 ハル「オレにも言わせてくれ!同じ猫としてオレは誇らしい!!」 レオ「二人ともやめてくれ…」 ドラ「よっ!天才!」 レオ「やめろよ…」 ハル「名軍師!」 レオ「よせって…」 ドラ&ハル「キレ者!」 ドラ&ハル「イケ猫(イケメン)」「女たらし!」「クールキャット!」 「頭の回転がピカイチ!」「足くさ猫!」「微笑みの貴公子!」「寝顔がブサイク!」「アイディアマン!」「腹立つ系の天然!」「ダンディ!」「ナルシスト!」etc レオ「ちょっと待て!!!!どさくさに紛れて悪口言ってる奴いるぞ??」 ドラ「そんな奴いたか?」 ニヤニヤしながらハルに投げかける。 ハル「いやー…ちょっと気付かなかった」 こいつもニヤニヤしてやがる。 レオ「(コホンッ)まーとりあえずこの作戦で攻めるってことで二人ともいいな?」 ドラ&ハル「異議な~し♪」 あまりにも完璧な作戦を聞かされて、オレはテンションが高くなっていた。 ドラ「そうと決まったら前祝やらないか?またたびを漬けといたドリンクまだあるだろ?」 ハル「え…」 レオ「いや~ドラ君、それはやっぱり作戦が成功してからじゃないか?」 2匹の様子がおかしい… ドラ「なんでだよ!やろーぜ!!2匹ともまだ帰らなくていいんだろ?」 ハル「……あ!オレ飼い主が心配するからそろそろ帰らないと!!」 ドラ「お前さっき家に居づらいって言ってただろ?」 ハル「……(汗)」 レオ「……あ!オレもそろそろ門限だから…」 ドラ「お前野良猫じゃん」 レオ「……(苦笑)」 レオ「ハル!ちょっと来い!」 レオがハルを呼びつけ、2匹で部屋の隅に行ってしまった。どうした?? レオ「ヒソヒソ(どうするんだよ?あいつ飲む気満々だぞ?)」 ハル「ヒソヒソ(オレ酔ったドラの相手するの絶対嫌だぞ??)」 レオ「ヒソヒソ…(酔うとあいつはお姉言葉で暴れ出すからな…)」 ハル「ヒソヒソ…(オレなんてこの間頭に付けられた傷がやっと治ったばっかりなんだぞ…)」 レオ「ヒソヒソ…ヒソヒソ!(酔うとオレも抑えられるか正直自信がない…よし、俺に任せろ!)」 ハル「ヒソヒソ…(頼むよ…名軍師…)」 何やら小声で2匹で話している。オレには内容まで聞こえなかった… レオ「いや~ドラ、せっかくの誘いだけどやっぱり今日はやめとこう」 2匹でオレのところまで戻ってくるなり、レオが言った。 ドラ「だからなんでだよ?」 レオ「お前酔うと少しはしゃぎすぎるだろ?」 ハル「…少しじゃないけどな(ボソッ)」 レオ「黙ってろ…」 ドラ「そうか?そんな変わらないだろ?」 レオ「いやいや…もしここではしゃいで足を捻挫でもしてみろ?今回の作戦はお蔵入りだぞ?」 ドラ「うーん…」 確かにレオの言うことも一理ある。 レオ「今回の作戦で一番大事なのはお前の破壊力抜群の後ろ足だぜ?正直こんなところで輝きを失わすわけにはいかないんだよ!」 ドラ「確かに!!」 レオ「だったらドラ君!宴は、すべてが終わってからハツの家でやろうじゃないか!!その時はハツに一杯お酌をさせるのも見物だぞ??笑」 ドラ「そうだな!悪かった!よし、やっぱり今日は解散にしようぜ!」 レオ「わかってくれればいいんだよ」 ハル「ヒソヒソ?(おい!ハツの家で飲み会をやる流れになってるぞ??)」 レオ「ヒソヒソ!(今は目の前の危機から脱出することだけを考えろ!)」 ドラ「よーし、そうと決まれば今日は解散!!明日の夜に作戦決行だからお前たちも気を付けて帰れよ!」 ハル「ほんとに大丈夫かよ…」 こうして俺たちはそれぞれの住処に帰っていった。
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