第5話 地獄の番犬

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第5話 地獄の番犬

予期せぬ状況となり未だに木の上で待機しているオレとレオ。 何があっても動けるようこのまま待機していたが状況が変わる気配がない。それよりもサリーが家の裏まで行き、いなくなっても動かないハルが心配だ。状況の整理もしたい。オレは意を決して地面に降りることにした。 ドラ「とりあえずオレはハルの様子を見に下に行く。レオはこのまま待っててくれ」 オレのいる枝の反対側にいる相棒に声をかける。 レオ「わかった。何があるか分からない。気をつけろよ」 ドラ「おう」 スタッ。オレは乗ってた木から地面に降り、急いでハルのもとへ向かった。 ドラ「ハル、大丈夫か?」 ハル「………」 ハルから反応がない。もしかしてどこか怪我でもしているのだろうか… ドラ「おいっ!どこか痛むのか?」 そういうとオレはうつぶせのハルの顔を持ち上げた。 すぐにハルの顔を確認したがなぜかハルはオレから視線を外した。その顔も心なしか赤みを帯びていた。 ドラ「お前…もしかして恥ずかしがっているのか?」 ハル「…」 ハルは何も答えない。どうやら屁をこいてしまったことを恥ずかしがって動けなかったようだ…どんだけ心配したと思っているんだよ!こいつぶん殴ってやる!! タッタッタッタッ… 気の置けない仲間に殺意が芽生えた瞬間何かがこちらに向かって突進してくるのが見えた。その何かはもちろん得体のしれない物体(ハルのこと)にいきなり至近距離で屁を嗅まされたサリー君だった… ドラ&ハル「ギャー!!!!」 オレとハルは思わず抱き合い、目の前から全力で距離を詰めてくる「恐怖」そのものに半泣きで叫んでしまった。 タッタッタッタッ… サリーはなぜかオレ達猫でもわかるくらい笑顔で尻尾をブンブンに振って全力でこちらに向かっている… 怒ってる!あいつは完全に怒っている!!きっと屁を至近距離で嗅がされ、この理不尽な怒りをどこにぶつけてやろうか考えていた時に犯人であるオレ達かわいい猫達を見つけたんだろう… (こいつら舐めた真似しやがって…どう遊んでやろうか??) あいつの心の中の気持ちが手に取るようにわかる オレ達は失敗したんだ…オレは瞬時に理解した。 タッタッタッタッ… あいつは全力で近づいてくる。 もうだめだ。そう思った瞬間 レオ「オレに任せろ!!」 さあ昼下がりの奥様方よ、お待たせいたしました!!そうです!我々にはイケメン猫のレオ君がまだ木の上で待機してたんですよ!! サリーがオレ達に近づくスピードを完全に計算し、これ以上ないタイミングで木からドロップキックを仕掛けた!!予定より高い気がしたが大丈夫。このまま行けばあいつの頭にドンピシャにヒットする。まさに起死回生の必殺技である。 よし!完璧に当たった!!…そう思った瞬間サリーが走りながらさらにスピードを上げるために頭を一つ分低くした。 レオ「うそ~ん」 ドンガラガッシャーン! レオは情けない声を上げながらサリーに気付かれることもなく、そのままハツの家の軒下に突っ込んでいった… あの天然猫が!!!!!!! その瞬間オレはハルに叫んだ。 ドラ「は…は…走れー!!!!」 タッタッタッタッ… ドラ&ハル「ぎゃーーーーーーーーー!!!」 オレ達はハルの家の敷地内を家に沿って全力で走っていく。策なんて何もない。 とにかく走って走って走っていく。 タッタッタッタッ… 後ろを振り向くとサリーが尻尾をブンブン振りながら追ってくる。あの悪魔…まだ笑ってないか? いやいやそんなはずがない。あいつは今までのオレ達の小細工に気付き、怒り狂って追っかけてきているはずだ!!決して遊び感覚で追いかけているわけじゃない!!!…はず。 それよりこの後どうする?どうすればこの状況から脱出できる?? このままじゃオレ達のガス欠で捕まるのも時間の問題だ… せめて体力のないハルだけでも先に逃がさないと… ハツの家の敷地内を全力でちょうど2周したがやっぱり何にも思いつかなかった。 事態はよくない方向へ少しずつ進んでいるのがオレにはわかっていた…ハルが逃げるスピードが遅くなってきている… ドラ「おい、ハル!根性見せろよ!」 ハル「………」 返事がない…横を走ってはいるが顔に疲れが出てきている… タッタッタッタッ… サリーとオレ達の差が少しずつ縮まっている。 ハル「ハァ…ハァ…ドラ…オレはもうだめだ…」 ハルがオレに話しかけてきた ドラ「うるせー!オレが何とかするからもう少し頑張れ!」 ハル「ハァ…ハァ…オレが止まって囮になる…その間にお前だけでも逃げてくれ」 ドラ「そんなこと絶対許さない!!」 ハル「ハァ…ハァ…お前は優しいな…オレに何かあったら…ハァ…ハァ…悪いけど時々明美に会いに行ってくれ…ハァ…ハァ…あいつは周りが思うよりずっと寂しがり屋なんだ…」 ドラ「いいから走れ!!!」 ハル「…頼んだぞ…」 そういうとハルは急に走るのをやめ敷地内の中央でうつぶせに寝転んだ… タッタッタッタッ… すぐにサリーがハルとの距離を詰める。 ドラ「ハルーーー!!」 オレは思いっきり叫んだ! サリー、頼むやめてくれ!オレはどうなってもいいからハルだけは見逃してやってくれ!!あいつには帰りを待つ家族がいるんだ!!心の底からオレはサリーに祈った… タッタッタッタッ… ついにサリーがハルの真後ろまでやってきた! ドラ「やめろーーーーーーーーーーーー!!!」 タッタッタッタッ… ??? タッタッタッタッ… え? タッタッタッタッ… ドラ「ギャー!」 オレはまた走り出した!! 悪魔の化身サリーはあろうことか捨て身で囮になったハルを無視し、止まっているオレに向かって走ってきた!! なんでだよ!ハルに行く流れだろ!! 訳の分からないまま一周し先ほどハルが横たわっていた場所に戻ってきた。そこには申し訳なさそうな顔をしてブロック塀に上ったハルがこちらを見ていた… ドラ「てめー、覚えてろよ!!」 ハルに向かって悪態をつきながらオレは4週目の鬼ごっこに突入した。 ドラ「ハァ…ハァ…」 しかし、流石のオレも体力の限界だ。後ろ足がつりそうだ… もう何を信用していいか分からない…頼れるのは自分だが何かを考えられるほど体力が残っていない… タッタッタッタッ… サリーのスピードは全く落ちておらずジリジリとオレとの差が無くなってきている。 多分そろそろ終わりだな… 極限状態にも関わらずオレは冷静だった。 取り敢えず走れるだけ走ってみよう… 半ば諦めに近い感情が出てきた。 しかし、事態は急に動いた。 オレが最初に隠れていた木の横を通り過ぎた時、木の枝が急に 「バサバサバサ~」 明らかに不自然な動き方をした。 その動きにサリーが動きを止め、音の方向へ目をやる。 その瞬間 ???「こっちだ!!」 誰かの声がした。 よく見ると最初にハルが侵入してきた穴から【シャドー】がオレに向かって声をかけていた。 オレは、急いで穴の中へ入ると敷地の外に飛び出した ドラ「ハァ…ハァ…」 何とか生きてる… ハル「ドラ、大丈夫か??」 ブロック塀から降りてきたハルが声をかける。 いきなり消えたオレを探して敷地内を動き回っているサリー。その隙をついてレオも戻ってきてオレに近づいてきた… あー、さっき気を揺らしていたのはレオか… ドラ「ハハ…ハハハハハ…」 すべてを理解したら何か笑えてきた。 さぁ、とりあえず帰ろう…
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