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第7話 決意
次の日、オレは朝のルーティンの散歩に出掛けていた。
オレは悩んでいた…オレ達の居場所作りのためにハツの家を選んだのだが、この間のように仲間を危険な目に合わせてまであの場所にこだわる理由があるのだろうか?
レオとハルはいい奴らだ。だからいつも文句を言いながらもオレの願いのために協力してくれる。言い出しっぺのオレが場所の変更を言わない限り、あいつらは成功するまで何度でも挑戦を続けるだろう…その挑戦の中でもしあいつらに何かあればオレは一生後悔することになる。
真っ当なリーダー(自称)なら迷わず場所の変更を仲間たちに提案するだろう。実際にほかの候補地と比べ、ハツの家はサリーのお陰で一番攻略難易度が高くなっている。
でもオレには誰にも言ってないがハツの家にこだわる明確な理由があるのだ。そう…ハツの家にはほかの候補地にはない〔アレ〕があるのだ…。しかし、仲間の安全も大事…
ドラ「はぁ……どうしたもんか……」
ため息をつきながら進む途中、いつもの田んぼ地帯に突入していた。
ドラ「気分転換に久しぶりにあれでもやるか…」
そう独り言をつぶやくとオレは田んぼに入って行く。もともと水はそんなに得意ではないが水の冷たい感触と泥の中で動き回り体を汚していく背徳感が癖になり、時々オレは田んぼの中で一人遊びをしている。
その遊びとは、一カ所の田んぼから動きの速いオタマジャクシを捕まえ生きたまま隣の田んぼに移動させるというものである。しかもそれを10匹行う。なかなか難しく、いい運動になるので気分転換には最高である。
ドラ「よし、1匹目!」
今日は、調子がいい!4匹目まで順調にこなしていく。
そのまま無心でおたまを追いかけ、5匹…6匹…7匹…
ちょうど8匹目を探しているときに声がした。
???「ドラ―!」
振り返るとそこには笑顔のムギがいた。何か袋を背中に背負っている。
ドラ「ムギ!どうした?」
ムギ「ちょっとね…それよりそんな泥だらけで何してるの?」
そういいながらムギはオレに近づいてきた。
ドラ「気分転換に「おたまの強制引っ越し大作戦」やってるんだよ」
顔に着いた泥をぬぐいながらムギに言った。
ムギ「なにそれ?笑」
笑うムギにオレは軽く説明を行った。
ムギ「楽しそう!私もやっていい??」
ドラ「え?」
そういうとムギは背負っていた袋を置いて、田んぼの中まで入ってきた。驚くオレをよそに当の本人は
ムギ「冷たっ。あ!見つけた」
と言って体が汚れることも気にせず、おたまじゃくしにダイブしていった!
ドラ「体汚れるけどいいのか?」
心配になり、ムギに声をかける。
ムギ「平気~。それよりどっちが先に引越し終わらせるか競争だよ?」
屈託のない笑顔でムギはオレに言ってきた。
ドラ「負けないからな!」
そういうとここからオレとムギの競争が始まった。
ムギ「ドラ!そっちいるよ?」
ドラ「本当?あ!マジだ!」
ドラ「ムギ何匹いった?」
ムギ「6匹~」
ドラ「やべ~意外と早いな!」
そんなことを言いながら2匹でおたまじゃくしを追いかけ何とかタッチの差でオレが勝利することができた。
ドラ「やったー!何とかオレの勝ち~」
ムギ「悔しい…いけると思ったんだけどな…やっぱり経験の差ね」
ドラ「いやムギ早いよ!」
そんなことを言いながら田んぼから出てくると2匹ともドロドロだった。
ドラ「こっちで泥落とせるよ?」
そういうとオレは田んぼの水の出入り口にムギを連れてきた。ここは田んぼに水を入れるために段差になっているので川下が小さな滝のようになっており、そこに入ると体についた泥を落とすことができるのだ。
ムギ「え~…このまま帰るからいいよ~」
ドラ「そんなわけにいかないだろ?笑」
子供のように嫌がるムギを何とか水の中に入れ、2匹で体に着いた泥をきれいに洗い流した。
近くの草むらに並んで座るとムギが寝転んだ。
ムギ「はぁー楽しかった!」
ドラ「汚れたまま帰ったらどうなってた?」
ムギの横に寝転びながらオレは聞いた。
ムギ「ん~…さすがに怒られるかな?笑」
ドラ「それは危なかったな。それよりどこかに行く途中だったんじゃないの?」
ムギ「なんだっけ?…あ!そうそう、おいしいブドウ手に入ってさ。お母さんも今日は調子よくて外に出られそうだったからドラと食べようと思って持ってきたの」
そういうと来た時に抱えていた袋からブドウを取り出し、オレに微笑んだ。
ドラ「(ドキッ)あ…ありがとう…」
なんか急に目が合わせられなくなった…
ムギ「おいしんだよ?」
そう言いながらムギは手際よくブドウを2匹分に分けてくれた。
オレの分のブドウを受け取ると最近のお互いの近況など他愛もない会話をしながら2匹でブドウを食べた。ほんと何気ない時間だったがオレには心地よく、あっという間に時間が過ぎていった。
ムギ「じゃあ、そろそろ帰るね」
そういうとムギは立ち上がった。
ドラ「おう…送っていくか?」
ムギ「朝だし、大丈夫。今日はありがとう。またね。」
ドラ「こちらこそ。気をつけろよ」
ムギは最後にいつものようにニコッと笑い帰って行った。
オレは、見えなくなるまでムギを見ていた。
ムギが見えなくなった後、オレはある決心をした。
ドラ「(やっぱりハツの家の攻略をもう少し頑張ってみよう!そしてレオとハルに何でハツの家にこだわるのかちゃんと説明しよう)」…と。
なんか急に緊張してきた…
ドラ「レオの奴また作戦考えてくれてるかな~」
そんな独り言を言いながらオレは、猫会議のために神社に向かって歩き出した。
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