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「あのさ……俺、そっちだから」  降ってきた言葉を聞き、奏斗は航を振り仰いだ。航は前を向いていたが、視線は彷徨っていた。 「何ていうか……」  二週間近く航が何も言わず、いまようやく話している理由がわかった。自分も同じで、気にしていないと言いたかったのだ。だが実際に口にするには葛藤もリスクもある。自分から切り出しながらもまだ迷っている航に、これ以上言わせたくなかった。 「そうだよ。俺も、そう」  航はほっとした表情をする。 「先輩と付き合ってる」  その瞬間、航が息を止めたように思った。  航は奏斗の顔も見ずに、そっか、とだけ答え、前を向いて歩いていた。  奏斗は車の中でうっすらと目を開けた。横でハンドルを握る大人になった航の横顔を確認する。  航とはそれから親しくなった。学校や部活の話以外にも、お互いの恋愛を相談し合った。初対面の予想通り、付き合いは長いものになっている。奏斗にとって親友と言ってぴったりくる相手は航だけだ。  目を閉じ、おぼろな思考で、あの時の航の表情を思い出す。少し傷ついたような表情だった。  何度か考えたことがある。あの頃、航は奏斗が好きだったのかと。  そうだとしても、奏斗には航と付き合うことを選べなかった。  だからこうしていられる。  奏斗はもう一度、車の揺れに身をまかせ眠った。    
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