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 荷物をまとめた奏斗は、サイドテーブルの横に座る航を振り返った。 「準備できたよ」  航は朝食のあと食堂から部屋に持ち込んだコーヒーをすすっていた。もともと荷物らしい荷物はなく、先に支度を終えていた。 「そういえば奏斗。なんでそっちのベッドで寝てたんだよ」  起きた時に奏斗は隣のベッドで眠っていた。目覚めて近くに奏斗がいないことに気づいた航が飛び起き、今朝はそれで目が覚めた。 「だって航の寝相、すごいんだもん」  げんなりした表情で荷物を持ち上げ、航の隣に立つ。航の手元のカップを取り上げた。 「航と住んだら絶対ベッドは別だね」  そう言ってコーヒーを一口飲んだ。航がまじまじと奏斗を見上げた。 「奏斗、俺と一緒に住む気、あるの」 「……それは、そのうちには」  カップを置くとキャップを被り、荷物を肩に担いだ。 「まずはちゃんと恋人しようよ」  航は奏斗を凝視してから、片手で目を覆った。 「え、なんで」 「いや……嬉しくて」 「もう……ほら、チェックアウトの時間だよ」  奏斗は航の顔を覗き込んだ。奏斗に肩を抱かれて航が立ち上がる。見上げる奏斗のキャップのつばを上げて、額にキスをした。にやりと航が笑う。 「うそ泣き?」 「行くか」  荷物を取り上げさっさとドアへ向かう。  その背中を見て奏斗は思わず笑った。航のあとを追う。航も強がりだ。  廊下へ出ると、奏斗は窓から空を見上げた。濃く澄んだ青い空が、今日の暑さを予告するように広がっていた。 「エレベーター来てるぞ」  手で扉を押さえて航が呼んだ。  奏斗はエレベーターに飛び乗る。航が手を離した。  扉がゆっくりと閉まり、ホテルの廊下がその向こうに消える。  航の運転する車であの街へ帰る。  きっと楽しい帰り道になる。  いつもと変わらない、くだらないことを話しながら。  これから先も、ずっと。
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