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意味のないじゃれあうような会話を交わしていると、店員が水とおしぼりを持って現れた。結局二人とも代わり映えしないオーダーを済ませる。
航はメニューを閉じてテーブルの奥に立てると、いつ手に入れたのか、遊園地のマップをテーブルに広げた。
「で、これ」
奏斗は身を乗り出して、ざっと全体を見た。
「とりあえずジェットコースターだね」
「子供か」
「普通押さえるでしょ」
「ゴーカートでいいじゃん」
航の眉がぴくりと動いたのを奏斗は見逃さなかった。航が絶叫系を苦手にしているなんて、いままで知らなかった。二人で遊園地に来るのははじめてだ。奏斗は内心にやりとしたことをおくびにも出さず言った。
「ふーん、じゃあ、それ行こっか。あとは?」
「おばけ屋敷」
「フライングバタフライ」
「……浮くやつかよ」
「浮いて落ちるのを楽しむやつ」
「バタフライに乗るの、奏斗」
「いいじゃん。形状を気にすんな」
「ちょうちょに乗るんだ、奏斗」
「いちいちうるさい。乗るよ」
いくつかチョイスし、ルートも決まった。
店内のパネルにアトラクションの待ち時間が表示されている。思ったより混んでいた。閉園時間は午後八時だが、レンタカーの返却も考えるとそんなに時間はないかな、と奏斗は考えた。
サラダが運ばれ、地図はテーブルの隅に片づけられた。ついでハンバーグとステーキがテーブルに置かれる。当然ライスは大盛りだ。
奏斗はフォークを取りながら、二つ向こうの席に目を留める。奏斗たちより少し若そうなカップルが仲良さげに向かい合っていた。
「なんか……デートみたい」
「そうか?」
「遊園地デート、憧れたな、昔」
「ああ」
「高校の時さあ、吹奏楽部の先輩と付き合ってたじゃん。俺。トランペットの。その人と行きたかったんだけど、結局行けなかったんだよね」
「そんなこと言ってたかもな」
「航に言ったっけ」
「多分」
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