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「結局飯、食ったのか」
「食った。佐良さんの彼氏ん家で。カレー作ってくれて」
「針のむしろだな」
非難めいた口調で航が言う。
「いいんだよ。俺がそうしたかったんだ。碧の……佐良さんの彼氏の話もいろいろ聞いて、二人が並んでるところ見て、お似合いで、もういいかって。あいつならいいって思った」
そこまで話し、奏斗は息をついた。
だから言っただろ、と航はいつものように言うだろう。奏斗は相談に乗ってくれる航の忠告を聞かず、こうやって無謀なことばかりする。それをたしなめられることは容易に予想がついた。
「もう寝るよ」
「迎えに行く」
「え?」
「明日休みだし、たまには俺も遠出したい。いまからレンタカーの空きがあればだけど」
「わざわざ車で? いいよ。来んなよ」
「期待するなよ。まだ行けるかわかんないし。そっちの住所送って」
奏斗の返事も聞かず、ぷつと電話は切れた。
「……迎えに行くってなんだよ。意味わかんない」
通話が終わった画面を見つめた。思いがけない話だった。本当に来るつもりなのだろうか。
とりあえず奏斗は言われた通り住所を記し、送信した。即座にOKと返信がある。やけに早い。本当にただ遠出したいだけなのか。
も、いいや、とひとりごち、奏斗はスマホを充電器に繋げ直して、広げていた持参のシュラフの上に寝転がった。
佐良は布団を使っていいと言っていたが、とてもそんな気にはなれない。
天井を見た。佐良は毎晩この天井を見ながら眠っているのだ。
いや、もう毎晩ではないのか。
しばらくぼんやりと天井を見ていると、航からまたメッセージがきた。
明日行く。十二時。バス停前集合。
奏斗は涙目で笑った。最低限しか情報のない文面が航らしい。
奏斗は膝を抱えるように横になり、目を閉じた。
多分、眠れない。
しかし少しだけ、見えない手に守られているような気がしていた。
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