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 翌週新入部員が集まり、彼が宮元航という名前だと知った。そういえば中学の大会で対戦したことがある。キャッチャーで打順は五番だった。大雑把だが、上手いし打つやつ、という印象だった。  航は入部当初から監督や先輩たちから一目置かれていた。中学時代の活躍が耳に届いていたらしい。奏斗には何となく遠い存在で、しばらくはそれほど親しい間柄ではなかった。  一ヶ月ほど経ったある日の帰り道、奏斗が駅への道を一人歩いていると背後から声をかけられた。 「坂田」  振り返ると、航が重い鞄を跳ね上げながら走ってくる。あっという間に距離を縮め、奏斗に追いついた。 「駅まで一緒に行こう」 「うん」  日は西に沈みかけ、薄墨が街を染めている。航はちょっと後ろを振り返り、また前を向いた。誰かいないか確かめているようだ。改まって口を開く。 「あのさ、坂田って、先輩と付き合ってる?」 「え? ……え?」  奏斗は急な質問に二度聞き返した。その話をいま持ち出されると思わなかった。奏斗にはそう尋ねられる心当たりがある。 「この間、目合っただろ」 「あー……」  この場合なんと答えればいいか、奏斗は迷った。  先々週の放課後、非常階段で先輩と短い逢瀬をした。彼にせがまれ、階段の途中に隠れてキスをしていると、視界の中に航の姿が現れた。航が非常階段を降りてこようとしているところだった。  航は奏斗の顔を見るとはっと足を止めた。奏斗は先輩にきつく腕を絡められ、隠れようがない。やばい、という言葉が頭の中をぐるぐる回る。航は音もなく非常口の扉へ引き返した。  彼氏にそれを話すとちょっと黙り込み、学校では会わないようにしようか、と告げられた。  重い気分でグラウンドへ向かった。練習が始まり、終わった後も、航は奏斗に何も言わなかった。航は噂話を好むタイプには見えなかったが、同級生が男とキスをしていた、などと言う衝撃的な事実を、胸に納めておけるとは限らない。このまま流して忘れてくれるか、目撃されたのは奏斗の思い違いであって欲しいと願っていた。
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